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⑨
「最近あの子、男はべらすの辞めたんだね」
そんなハーレム女子の声に顔を上げる。
そこには、クラスメイトの女子と仲良く話す彼女の姿があった。
先週あたりから、女子といる時間が増えていることには気付いていた。
しかもあれは女バスのメンバーだから、きっと京香が采配したのだろう。
あの酷い告白の話を聞いたのかもしれない。
そして、他のハーレム男子たちは一体どこへ消えたんだろう。
「ってゆうか、はべらすって言い方はどうなの」
彼女を見つめて物思いに耽っていると、別の女子が笑いながらツッコミを入れた。
「はべってるうちらが言う事じゃないか」
周囲の女子がどっと笑い、俺は複雑な気持ちになる。
俺だって他のよく知らない人間から見れば、女子をはべらせる軽薄な男なんだ。
男友達は普通にいるし、部活の仲間とはかなり仲がいい。
だからあまり意識してこなかっただけで。
彼女があの日、放課後の教室で言われていた言葉を思い出す。
周りの女子を全員食ってるって――食われてると思われてるのだとしたら、この子たちにも申し訳ないんじゃなかろうか。
「え? その噂しってるけど、気にしてないよ」
噂についてそれとなく言ってみたら、全員に「何を今さら」と笑われてしまった。
「噂したい奴はさせとけばいいじゃん。仲いい子は本当のコト知ってるんだし、信じて欲しい人にだけ信じてもらえたらそれで良くない?」
ハーレムの中でもリーダー格の女子がそう言うと、他の面々もウンウンと頷いた。彼女たちの方が、俺なんかよりだいぶ大人みたいだ。
「で、真也君はどうなの?」
「え?」
真面目な顔で問われて、質問の意図が分からず聞き返す。
「真也君は、うちらを食ってるってあの子に思われるの、嫌?」
「は」
「うちら全員知ってるからね? 真也君があの子を好きなこと」
既にばれていた……だと?
俺のポーカーフェイスはどこいった。
「2人がくっついたらこのハーレムも解散だーって思って覚悟してたけど、全然くっつかないまま夏休みになっちゃうし、ちょっと気になってたんだよね」
別にくっつかなくてもいいけど、とみんなが笑った。
「どうして」
「うちら、真也君のことカッコイイと思ってるし、人によってはガチ恋してるけど」
その言葉に3人ほど俯いたのが視界の隅にうつった。
「人の恋路を邪魔するほど堕ちてないし。誰かが抜け駆けするのはダメだけど、真也君の方が好きならもう仕方ないじゃん」
うんうん、と全員が頷く。
「あの子と真也君がくっついたら、それはそれで淋しいけどさ。でも、そういう気持ちを分かち合える仲間がたくさんできて、失恋パーティーで2人を呪って盛り上がろうってうちら決めてるし、全然遠慮しなくていいよ」
数人が涙目になっていることを、俺は無視していいのだろうか。
「真也君かっこいいけど、恋愛面はだいぶヘタレだって分かったからね」
そう言って爽やかに笑うリーダーは、これまで見たどの表情よりも一番魅力的だった。
「ま、応援はしないけど頑張って? ぶっちゃけもう、両片想いは見飽きたわ」
「みんな、ありがとな。すげー大人でカッコイイわ。」
「いつでもここに帰ってきていいからね?」
むしろ振られて帰って来い!と全員揃って笑うのを、清々しい気分で見つめる。
……ところで、リョウカタオモイってなんだろう。
***
「友達できて良かったね」
「うん、ありがとう」
素直にお礼を言うと、ハーレム君たちも嬉しそうに笑った。
「責任感じてたんだ」
「責任?」
「俺たちが入学早々ちやほや群がってたせいで、友達作るタイミング逃しちゃったんだろうなぁって」
「あぁ」
そこは否定しないけれど。
女子の友達を作ろうとしなかった私に一番の非があるのは間違いない。
「私、中学の時に仲良かったグループから弾かれたことがあって」
「女子あるあるだ」
「そう。あるあるなんだけど、グループの子の彼氏が、私のことを好きになったからって」
「とばっちりか」
「私も悪かったの。好きな人に振り向いてもらうために、色んな男の子で行動実験してたから」
「あー……それはちょっと、ダメだね」
ハーレム君たちが苦々しい表情になる。
彼らもまた、行動実験の対象だったのだと悟ってしまったのかもしれない。
ハーレム君たちを実験対象にしたことはないけれど、実験結果に基づく行動を心がけてきたから、結果的には同じことだ。
「どう振舞ったら男の子に振り向いてもらえるのかな、とか、そういうの。誰彼かまわず愛想振りまいて、好きにさせたら用済み、みたいな。最低だよね。そんなの良くないって、今なら分かるんだけど」
「それを、友達の彼にもしてたの?」
「ううん、まさか!!」
ぶんぶんと首を振る。
そこまで人でなしのつもりはない。
「でも、色んなところに愛想振りまくってたから。
魔性の女とか、八方美人とか、ぶりっ子とか、知らないうちに女子からの恨みをかいまくっていて。それで高校ではそういうことしないぞって決めてはいたんだけど、いざ女子を目の前にしたら、どう振舞っていいか分からなくなっていて。だから、みんなが集まってきてくれたとき、どこかで安心してる自分もいて」
「だから、俺たちが付きまとうの拒否しなかったんだ」
「これまで、甘えててごめんなさい」
「一方的に追いかけてるつもりだったから、あさひちゃんに甘えてもらえてたんなら光栄だよ」
ああ、ハーレム君たちの笑顔が眩しい。
私の王子様はずっとしん君一人だけど、ハーレム君たちも騎士様くらいのカッコ良さはある。
「京香ちゃんとは幼馴染で、京香ちゃんがバスケ部の子と仲良くなれるように取り計らってくれたの」
「――なんか、あさひちゃんとは全然タイプの違う女子だけど大丈夫?」
京香ちゃんのお友達はゴリゴリの体育会系女子だ。
化粧はしないし、巻き髪もしない……というか、全員ベリーショートだし。
部活でそう決まっているらしい。
「私も昔は、ああいう感じだったの。もし、京香ちゃんやしん君とずっと一緒にいられたら、ああいう感じのまま高校生になってたかもしれない」
あ。
今、ハーレム君全員が想像してる。
すっぴんで、ベリーショートで、めいっぱい汗をかいて部活に勤しむ私を。
「うん」
「それはそれで」
「悪くない」
「アリだな」
口々に言うので、思わず笑ってしまった。
「もう少し体力つけたら、バスケ部に入れてもらおうと思うんだ」
「あぁ、あさひちゃん、案外運動神経いいよね」
「うん。本当はスポーツ大好きだから」
「もう、そういうキャラは辞めるの?」
「辞めない」
そこだけは、絶対に。
「はぁちゃんって確かに可憐で儚げであざといけど、よくよく考えたら魔法戦士として戦う逞しさも持ってるわけで、そこを両立させるのが大事だって気付いたんだよね」
はぁちゃん、とは。
と全員の頭上にハテナが飛んだが、気にしない。
「うん、だから、私は私のまま、もう少し逞しくなる」
「そっか、頑張って」
「今までありがとう」
ハーレム君たちとの最後のデートが終わった。
マクドナルドを出て、手を振って別れる。
本当は少しだけ、淋しい気持ちもある。
だけど、分かち合えた彼らとは、これからも程よい距離で友達になれればいい。
「両片想い、実るといいね!」
ハーレム君の一人が、少し離れたところから叫んだ。
手を振り返し、彼らが去って行くのを見送る。
……リョウカタオモイってなんだろう。
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