71人が本棚に入れています
本棚に追加
/147ページ
「すまん。ちょっと待ってろ」
あまり関わっても迷惑だろうから、使わないようにしていたが。
俺は一人診療所に戻り、父さんに電話を掛ける。父さんは二十年前、この診療所で獣医をやっていたらしい。この「島」で起こったこと。何か知っていないだろうか。
「おぉカイ! どうした、父さんが恋しくなったか? 」
冗談はやめてくれ。
「ちげぇよ。聞きたいことがあるんだけど、今良い? 」
「ん。父さんが知ってることならな」
「この『島』ってさ」
「おう」
「昔、何かあったのか? 」
「……どうしたんだよ急に」
「いや、ちょっと気になってさ」
「まぁあれだ。二十年前に事故があってな。そんでみんなで『島』を離れた。そういうことだ」
「事故って? 」
「あー、気にすんな。すまん、ちょっと用を思い出した! 寝るときはちゃんと布団に入れよ。またな! 」
ガチャン。電話が切れた。
それから何度掛け直しても、父さんは出なかった。
「戻ったぞ」
「カイったら。お話は最後まで聞かなきゃだめだよ? 」
お前が言うな、と言いたいが、そこは言葉をぐっと飲み込む。アオイを待たせてしまったのは事実だ。
「いえ、お構いなく……」
アオイはふぅと小さく息を吐く。
「だからわたし、カイさんがいれば解決できるんじゃないかって思って」
「それで、俺をそいつに会わせたい、と」
「はい……。無理にとは言いません。スイカイ、危険ですから」
そう言われてもな。何ができるかわからないが、スイカイの脅威を少しでも減らせるなら協力したい。実際俺も食われかけたからな。
「まぁ、俺が行っても足手纏いだと思うけどな」
「そ、そんな事は……」
「行くだけ行くか。『島』見物も兼ねて」
「もう、ほんとは心配なんでしょ。アオイのこと」
カッコつけてみたが、呆気なく見破られた。ノアの洞察力は変なときに鋭いから困る。
まぁ、ヒトの姿のスイカイというのも気になる。この前サンゴ礁で聞いた話と関係しているかもしれないしな。
「本当ですか……? ありがとうございます! 」
アオイはぺこりと深く頭を下げる。やめてくれ。俺はきっと、大した事はできないだろうから。
「じゃ、準備するぞ。ノア手伝え」
「あ、わたしも……」
「アオイも一緒にやろ! 教えてあげる! 」
ノアはアオイの手を引き、診療所の中に飛び込んで行く。元気が良くて何よりだが、怪我はするなよ。
……って、おいおい。
「……なに持って行くんだっけ? 」
それを聞いてから動け。
最初のコメントを投稿しよう!