【1】翼

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「すまん。ちょっと待ってろ」  あまり関わっても迷惑だろうから、使わないようにしていたが。  俺は一人診療所に戻り、父さんに電話を掛ける。父さんは二十年前、この診療所で獣医をやっていたらしい。この「島」で起こったこと。何か知っていないだろうか。 「おぉカイ! どうした、父さんが恋しくなったか? 」  冗談はやめてくれ。 「ちげぇよ。聞きたいことがあるんだけど、今良い? 」 「ん。父さんが知ってることならな」 「この『島』ってさ」 「おう」 「昔、何かあったのか? 」 「……どうしたんだよ急に」 「いや、ちょっと気になってさ」 「まぁあれだ。二十年前に事故があってな。そんでみんなで『島』を離れた。そういうことだ」 「事故って? 」 「あー、気にすんな。すまん、ちょっと用を思い出した! 寝るときはちゃんと布団に入れよ。またな! 」  ガチャン。電話が切れた。  それから何度掛け直しても、父さんは出なかった。 「戻ったぞ」 「カイったら。お話は最後まで聞かなきゃだめだよ? 」  お前が言うな、と言いたいが、そこは言葉をぐっと飲み込む。アオイを待たせてしまったのは事実だ。 「いえ、お構いなく……」  アオイはふぅと小さく息を吐く。 「だからわたし、カイさんがいれば解決できるんじゃないかって思って」 「それで、俺をそいつに会わせたい、と」 「はい……。無理にとは言いません。スイカイ、危険ですから」  そう言われてもな。何ができるかわからないが、スイカイの脅威を少しでも減らせるなら協力したい。実際俺も食われかけたからな。 「まぁ、俺が行っても足手纏いだと思うけどな」 「そ、そんな事は……」 「行くだけ行くか。『島』見物も兼ねて」 「もう、ほんとは心配なんでしょ。アオイのこと」  カッコつけてみたが、呆気なく見破られた。ノアの洞察力は変なときに鋭いから困る。 まぁ、ヒトの姿のスイカイというのも気になる。この前サンゴ礁で聞いた話と関係しているかもしれないしな。 「本当ですか……? ありがとうございます! 」  アオイはぺこりと深く頭を下げる。やめてくれ。俺はきっと、大した事はできないだろうから。 「じゃ、準備するぞ。ノア手伝え」 「あ、わたしも……」 「アオイも一緒にやろ! 教えてあげる! 」  ノアはアオイの手を引き、診療所の中に飛び込んで行く。元気が良くて何よりだが、怪我はするなよ。  ……って、おいおい。 「……なに持って行くんだっけ? 」  それを聞いてから動け。
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