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外に出ると、目の前には砂浜と海が広がる。この診療所は緩やかな坂の上にあるから、眺望は最高。白い砂と青い水。緑の山。いつ見てもいいものだ。
……そんなことを考えている場合ではない。ノアを捕まえなくては。
数日暮らす中で、あいつの行動はなんとなくわかっている。だが逃走されたのは初だ。どこに行ったのか見当もつかない。
取り敢えず、そんなに遠くには行っていないだろう。近場を探すか。
砂浜、林、イワクラさんの家。診療所の近くを回るが、どこにもいない。
参ったな、ここまで手間取るとは。さすが野生動物。危機から逃れるのはお手の物か。
「大変ですなぁ、イルカと鬼ごっことは」
黒地に白い斑点模様。地面に着くほど長い袖の和服を着た老人。イワクラさんだ。
「すいません、折角頂いたのに……」
「いえいえ、好き嫌いは誰でもありますよ。野菜の美味しさを知ってほしい、とも思いますがな」
おおらかに笑う。落ち着く声。
「あいつが行きそうな場所、知りませんか? 」
「さぁ、私にもそれは」
そうだよな。
「『島』には慣れましたかな」
「ええ、まぁ」
思えば「島」で最初に出会ったのがイワクラさんだ。見ず知らずの俺を助けてくれたり、生き物たちとかまどを作ってくれたり。いつかお返ししなくちゃな。
「『島』は広いですからなぁ。時間があれば、あちこち見て回るといいですぞ」
「あ、風の丘には行きましたよ。潮溜まりとか、サンゴ礁も」
「それはそれは。他にも色々な場所がありますぞ。当然生き物たちもたくさん」
オトヒメエビ 、ウツボ、ネコザメ 、モンハナシャコ。俺が今まで会った生き物たち。
他にはどんな奴らがいるんだろう。考えると楽しみだ。
「あ、そう言えばノアですが……」
何か思いついたようだ。
「ひょっとしたら、海にいるのでは? 」
マジかよ。
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