18話

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18話

「ところで便器ちゃん、さっきから私、気になってる事があるんだけど・・・・・・」 「そうなんだ、オレもさっきからずっと気になっていたことがあるんだ」  エメドラちゃんとブラカスちゃんが言った。 「なんだゲロ?」 「うんその、えーともしかして便器ちゃん、その、風邪でも引いちゃったの?」 「え、どうしてゲロ」 「だって便器ちゃん、さっきからずっと『ゲロゲロ』言ってるじゃないか。オレたちずっとそれが気になってたんだ」 「ええ僕、ゲロゲロ言ってたゲロか? ああ、本当だゲロ、ゲロゲロ行ってるゲロ!」 「やれやれ便器ちゃん、やっと気がついたのかよ」  ブラカスちゃんは大げさなジェスチャーをしながら言った。 「それで便器ちゃん、便器ちゃんはやっぱり風邪引いてるみたいかな。喉が痛かったりとかしてない?」  優しいエメドラちゃんが僕を心配して言った。 「ありがとうゲロ、エメドラちゃん。でも『アーアー』やっぱり僕は平気みたいゲロ、風邪じゃ無いゲロ」 「本当か? 便器ちゃんまた強がってるんじゃ無いだろうな。どれどれ熱が有れば嘘ついててもすぐ分るんだから・・・・・・」  そういってブラカスちゃんが、自分のおでこに手を当てながら僕のおでこにも手を当てた。 「うーん熱も無いみたいだな」 「ほらゲロ、僕は平気ゲロ」 「じゃあなんで、ゲロゲロ言うんだよ」 「何でと聞かれても、自分でもよく分らないゲロー」 「便器ちゃん、それじゃあ取りあえず、のど飴食べる?」  「あ、貰うゲロ!」  エメドラちゃんがいつものポシェットから袋に包まれたキャンディーを取り出した。僕は本当の何処も変なところは無かったけれど、久しぶりに甘い物が食べられると思って、思わずキャンディーを受け取った。 「あっ便器ちゃん、キャンディーは袋ごと食べちゃダメだろ!」  ブラカスちゃんは僕に、奇妙な指摘をした。 「ゲロ?」 「それに今、すごく舌が伸びたよね」  エメドラちゃんもそんな事を言った。 「というか早すぎてよく分らなかったんだけど・・・・・・何か一瞬、便器ちゃんの舌が伸びて舌でキャンディーを取っていった様に見えたぞ」  ブラカスちゃんが言った。 「・・・・・・」  言われてみれば僕は今、無意識のうちに舌を伸ばしてキャンディーを受け取った様な気がする。でも、それがどうしたと言うんだろうか? ガンバリパークにはキャンディーを舌で受け取ってはいけないというローカルルールでも有るのだろうか? 「そ、それがどうかしたゲロか? 僕が舌でキャンディーを取ったからって、そんなに悪いことゲロか?」  僕は反論した。 「いや別に悪いことは無いけど、でも何か、今までの便器ちゃんらしくないと思うんだけど」  ブラカスちゃんが言った。 「そうだよ便器ちゃん、便器ちゃんが舌を伸ばしてキャンディーを受け取った事なんて、今まで一度も無かったじゃない」  エメドラちゃんも付け加えた。仲良しのズルンズが二人で結託して僕を批判しているのだ。そう思うと僕は、何だか無性にいたたまれなく腹が立ってきた。 「そっそれを言うのなら、僕が君たちの前でキャンディーを食べるのも今のが初めてゲロ。だから今までの僕とちょっと違うとか、そう言うのは二人の経験上、全く当てはまらない事だと思うゲロ。それに僕たちはまだ、その・・・・・・まだ知り合ったばかりだし、お互いを事をそれほどよく知らないはずだゲロ。だから、もともと僕は、キャンディーを舌で食べるズルンズなんだゲロ!」  僕は二人にまくし立てた。 「・・・・・・」  僕のものすごい剣幕に二人はしばらくキョトンとして動けずにいた。やがて口を開いてブラカスちゃんが言った。 「便器ちゃん・・・・・その、ごめん。今のはすこし言い過ぎたよ。それに確かに便器ちゃんの言うとおりだ。オレは聞いたことも無いけれど、きっと便器ちゃんの言うとおり便器ちゃんはキャンディーを袋ごと食べるズルンズなんだろう」  ブラカスちゃんは僕の反論を認めた。さすがのブラカスちゃんも僕の論理的な回答に舌を巻いたという事だろう。やっぱりいくら知の化身であるブラックカオスドラゴンと言えども、太古の記憶だけでは論理的な僕とのディベートに勝つことは出来ないのだ。僕はきっと、すごく『地頭』が良いズルンズに違いない。 「怒ってないゲロ、本当の事を言っただけゲロ」  僕は言った。 「ごめんね便器ちゃん」  エメドラちゃんも謝った。 「いいゲロ、二人が分ってくれたならそれでいいんだゲロ」  僕は二人に寛容な所を見せて、今回は許してあげる事にした。 「まあ、便器ちゃんが風邪引いてないっていうのなら、オレたちは別にゲロゲロ言ってても舌でキャンディーを受け取ってもいいんだよ・・・・・・。よし、それよりもオレたちは予定通り、ガンバリ湖の水で水浴びをしよう。それで砂漠の嫌な汚れも早く綺麗に洗い落としちまおうぜ!」  ブラカスちゃんは気を取り直して元気よく言った。 「賛成賛成、ハー、やっと水浴びが出来るんだねー」  エメドラちゃんも元気よく答えた。  そうだった。僕たちはこれから、三人で仲良くガンバリ湖で水浴びをするところだったんだ。その事を思い出すと、僕もさっきまでの激しい口論を綺麗さっぱり水に流したい気持ちになった。 「やったー水浴び、水浴びだゲロー」  水浴びと聞いて、僕のテンションも思わず跳ね上がる。 「じゃあブラカスちゃんと私はあっちで水着に着替えてくるから、便器ちゃんはしばらくここで一人で待っててね」  テンションの上がった僕に、エメドラちゃんがさりげなく冷や水を掛けた。 「え、一人で待つゲロ?」  僕は呆気にとられた。 「なんで、なんで僕だけ一人で待つゲロか? 一緒に行って、みんなで楽しく、一緒に水着に着替えたらいいじゃないゲロか?」  僕の質問にブラカスちゃんが言った。 「だって便器ちゃん、便器ちゃんは水着を持ってないだろう。水着が無いんじゃ着替えらられないし、一緒にいてもしょうが無いじゃないか」 「そ、それはそうだゲロ・・・・・・」  僕は納得させられた。確かにブラカスちゃんの言い分は、とても筋が通っているように思えた。だけど、どうもしっくりこない。もしかしたらブラカスちゃんの話には何か重要な、論理の誤魔化しが隠されているのかも知れない。 「・・・・・・」 「どうしたの便器ちゃん、急に考え込んだ顔をして・・・・・・」 「何だよ便器ちゃん、オレの言い分に、何か文句でもあるのかよ」  ブラカスちゃんはそう言って僕を見つめた。その自信満々で真っ直ぐな、綺麗で完全な美少女の顔を見ていると、僕は何だかまた無性にイライラしてきた。 「いや、そんなの絶対におかしいゲロ!」  僕はブラカスちゃんの鼻先に指を突きつけて言い放った。二人の言い分の、巧妙に隠された論理の穴を見つけたのだ。 「そもそも二人は本当に水着を持っているゲロか? エメドラちゃんは多分、いつもの何でも出てくる魔法のポシェットに今回も都合良く水着も入ってて、それを取り出すつもりゲロ。でもブラカスちゃんの水着はいったい何処から出てくるゲロ? ブラカスちゃんの水着も、その魔法のポシェットから出てくるゲロか? だったら僕の水着だって同じように魔法のポシェットから出てきてもおかしくないはずゲロ。そうでは無いというのならば、ブラカスちゃんの水着も同じようにエメドラちゃんのポシェットからは出てこないはずゲロ。ではブラカスちゃんの水着はいったい何処に有るゲロか? ブラカスちゃんは僕と一緒で最初から自分の手荷物なんてなに一つ持っていないゲロ。という事はブラカスちゃんも水着を持ってはいないはずだゲロ。つまり僕の水着は無いのに、ブラカスちゃんの水着だけは有るという事はあり得ないゲロ。でもブラカスちゃんの水着だけは有る、という事は、もしかして二人は本当は僕の分の水着もすぐ用意出来るのに、僕をのけ者にするためにわざと僕の水着は無いという事にしているんじゃないゲロか!」  僕は二人に自分の論理的な考えを伝えた。 「そんな、何で私たちが便器ちゃんをのけ者にするの? 私たちはそんな事、ぜんぜん思ってないよ」  エメドラちゃんが否定した。 「そうだぞ便器ちゃんをのけ者に何てしないぞ、どうしちゃったんだよ便器ちゃん」  ブラカスちゃんも否定した。  でも僕は納得出来ない。 「だったら、だったら証拠の水着を見せるゲロ、ブラカスちゃんは何処にどんな水着を持っているんだゲロ」  僕は前のめりになって聞いた。そしてブラカスちゃんの胸や、お尻のポケットの中に水着が隠してかもしれないと思って調べようと手を伸ばした。  パシッ 「痛いゲロ!」  しかし僕の手はブラカスちゃんに触れる前に無慈悲に叩き落とされた。 「何だよ疑り深いな~分ったよ、水着を見せれば便器ちゃんも納得するんだな。だったら、ちょっとそこで待ってろよ」  そう言うと突然、ブラカスちゃんはピョーンと魔法を使って空へ跳び上がってしまった。 「ああ僕が、僕がブラカスちゃんの体を、すみずみまで取り調べをしてあげるゲロ~」  ブラカスちゃんは僕を無視して、申し訳程度の小さな羽をパタパタさせながら湖の方に飛んでいく。そして湖の上で止まってしばらくキョロキョロしだした。 「有った、アレだな」  ブラカスちゃんはそう言うと、湖面を指さし急降下して水の中に飛び込んだ。  バシャーン 「わ、着替えもせずに一人で湖に入ってちゃったゲロ、どういうことだゲロ」 「・・・・・・まあ、ちょっと待ってようよ」  僕の問いにエメドラちゃんは何でも無いように落ち着いて答えた。 「有ったぞー」  しばらくすると、ブラカスちゃんが湖の中から顔を出して、何かを掴んでこっちに手を振った。それから湖の中から魔力を使って飛び上がり、同じように羽をパタパタさせながら戻ってきた。 「ほら、これがオレの水着さ」  びしょ濡れのブラカスちゃんが手に持っていたのは、何だか小さい、黒いシジミの様な貝だった。 「何だこれ、これじゃあ乳首しか隠れないじゃないゲロか、こんなの水着じゃ無いゲロ」  僕はブラカスちゃんが水着だという小さなシジミを、指先でつまみ上げて言った。 「??何だよ便器ちゃん、何を言ってるんだよ。水着なんて乳首さえ隠れればじゅうぶんじゃ無いか。もしかして便器ちゃん、便器ちゃんは水着がどんな物か知らなかったのか?」 「ええ!」  僕はそう言われて、何だかすごいカルチャーショックを受けた。そして急に恥ずかしい気持ちになった。  そうか、そう言われればガンバリパークでは水着は乳首さえ隠れたら十分なのかも知れない。それがガンバリパークの常識ならその通りなのだ。それなのに僕は、いったいどんな先入観でどんな水着を想像していたというのだろうか? もしかしたら僕は、乳首だけじゃ無くて胸全体を覆うような、そんなブラジャーのような大きくて野暮ったい水着でも想像していたのだろうか? でも僕は、この世界にブラジャーが存在しないことはよく知っている。そんな事は分かりきっていた事のに、なんでそんなつまらない水着を想像してしまったのだろうか? 「た、確かにシジミで、それで十分だったゲロ・・・・・・」  僕はブラカスちゃんの手に貝殻を返すと、それを見つめながら言った。 「ね、これで分ったでしょう。さいしょから誰も便器ちゃんの仲間はずれにしようなんて思ってなかったんだよ」  エメドラちゃんが言った。  僕はそんなエメドラちゃんを思わずジッと見つめた。エメドラちゃんの体型は、ブラカスちゃんのスレンダーな体型よりも少し胸のサイズが大きかった。 「じゃあエメドラちゃん、エメドラちゃんもシジミの水着を着るゲロか? 差し出がましいことを言う様だけれど、僕が思うにエメドラちゃんはブラカスちゃんよりも少しバストのサイズが大きいゲロ。という事は乳首も少し大きいはずだゲロ。でもこのシジミではそんなエメドラちゃんの乳首を完全に覆い隠すことは難しいと思うゲロ。それとも他に、エメドラちゃんは自分専用の水着を他に用意していて、その魔法のポシェットの中に持っているゲロか?」 「エヘヘさすが便器ちゃんはめざといね。その通り、私はブラカスちゃんよりも少し乳首が大きいかも知れない。そしてそんな私の水着、私にフィットする水着はね、ジャジャーンこれだよ」  エメドラちゃんはそう言うと、サッとその場にしゃがみ込んで足下に生えていた草の中に手を突っ込んだ。 「これと、これよ」  そして草を選ぶと摘み取って立ち上がった。彼女の差し出した手の中には、二本のクローバーがある。青々としてみずみずしい、四枚の葉のついた四つ葉のクローバーだった。 「ほら、これでバッチリ、私の乳首もちゃんと隠れるよ」  そう言って、エメドラちゃんは少し照れながら自分の乳首の位置に四つ葉のクローバーを押しつけポーズを取って見せた。  「本当だ、本当にピッタリだゲロ・・・・・・」  僕はその造形的に完全な姿を見て、何だがすごく納得してしまった。 「ざーんねん、四つ葉のクローバーは今ので売り切れみたいだね。他はみんな三つ葉のクローバーみたい。三つ葉じゃあ隙間が空いて乳首を全部隠しきれない、だから便器ちゃんの分は無くなっちゃったって事だね」  エメドラちゃんは周囲の緑を見回しながら言った。 「本当に、本当にもう、四つ葉のクローバーは無いゲロか?」  僕は地面を、四つ葉のクローバーが生えていた辺りを見つめながら聞いた。 「もう便器ちゃん、私の目の良さを忘れたの? 私が無いって言ったら、もうどんなに便器ちゃんが頑張って捜しても、この辺に四つ葉のクローバーは一本も見つかりません。そんなの無駄な努力だよ。それよりもブラカスちゃん、ブラカスちゃんはさっき湖に飛び込んでびしょ濡れになっちゃったから、早く着替えた方がいいよ。このままじゃきっと風邪引いちゃうからね」 「うん、そうだね。はやく着替えよう」  そう言って二人は着替えるために奧の林に向かって連れだって歩き出した。僕を一人残して・・・・・・。 「ちょ、ちょっと待つゲロ」  僕は慌てて二人を呼び止めた。 「じゃあ、じゃあ僕の水着は? たしかに四つ葉のクローバーは売り切れだから仕方ないかも知れないゲロ。でもブラカスちゃんの、シジミの水着なら、タダのシジミならまだ沢山あるはずゲロ。だからさっきブラカスちゃんは、僕の分のシジミも一緒に拾ってきてくれたら、それで良かったんじゃないゲロか? なのにどうして、僕の水着だけ無いんだゲロ」  僕はこみ上げてくる涙をこらえながら言った。 「ああ、ごめんごめん。そう言うのもっと早く言ってくれよな。オレ、すっかり忘れてたじゃ無いか」  ブラカスちゃんは僕の切実な疑問に、あっさりと軽く答えた。 「じゃあこれから、ちょっと飛んで行って僕の分のシジミを拾って・・・・・・」  僕の要求を遮るように、エメドラちゃんが口を挟んだ。 「もう便器ちゃん、ワガママはいい加減にしなよ! ブラカスちゃんが寒そうに震えてるじゃ無いの」 「・・・・・・」  エメドラちゃんの声は、いつになく厳しく聞こえた。もしかして僕は、優しいエメドラちゃんをついに怒らせてしまったのだろうか。  僕の心配をよそにエメドラちゃんは続けた。 「それに、そんな事よりも便器ちゃん、便器ちゃんの大事な便器はいったいどこにやっちゃったの? 便器ちゃんはいつもあの便器の事を大事にして肌身離さず持っていたじゃ無い。そんな大事なものをいったい何処に忘れてきちゃったの? それとも便器のことは、もうどうでもよくなっちゃったのかしら」 「あっそうだったゲロ、僕の便器が無いゲロ」  エメドラちゃんに言われて、僕は初めて自分の便器のことを思い出した。僕の便器はいったい・・・・・・。 「そうだ思い出したゲロ、まだダイベンガーのコックピットの中だったゲロ」  そうだった、大事な便器はまだダイベンガーのコックピットの中に置いたままだったのだ。確か、ダイベンガーの中に入る儀式をするために、ゴールドベル・スケープゴートの血を浴びて、それから便器はダイベンガーのコックピットに入るための蓋になった。その便器と一緒に僕たちがダイベンガーのコックピットの中に入った後は、便器自体がコックピットの入り口を塞ぐ栓になっていたはずだ。 「僕、急いで便器を取ってくるゲロ」  僕はダイベンガーに向かって走り出しながら言った。 「よし、それじゃあその間にオレたちは着替えを済ませておくよ」 「分ったゲロ」  しかし、ようやく話しを終わらせた僕をエメドラちゃんが呼び止めた。 「あっそうだ便器ちゃん、ちょっと待って!」  エメドラちゃんがブラカスちゃんに何やら耳打ちした。 「ゴニョゴニョ・・・・・・」  それから二人は声を揃えて言った。 『せーの、早くいっトイレ!』
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