第1章 シネマカフェ「カノン」

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「凜花?」 「うん。晩ごはんどうって。もう食べちゃったよ」 「でも会いに行くんだろ?」 「そうね。謝ってきたから許してあげる」  今回は凜花が折れたらしい。 「お友達?」  高良が残り少ないカレーをナンですくっている。彩は平然と答えた。 「ううん、彼女」  一瞬、高良の手が止まる。  それから何ごともなかったようにうなずいて「ケンカしてたの?」と訊いた。お、大人の反応。 「うん。でも謝ってくれたから会いに行こうかな」  素早くやり取りをしてスマホをしまい、財布から二千円を出しておれに渡して立ち上がった。 「凜花によろしくな」 「うん、今日のことも話しとくよ」  ってつまり、高良のことだろう。  よけいなことを言うなと顔をしかめると、ふふっと笑って高良に「ごめんなさい、お先に失礼します」と声をかけた。社会人経験がある彩はこういうところがきちんとしている。 「ああ。気をつけて」  彩が出て行くと、高良は最後のカレーをぬぐってナンを食べ、口に出していいのかと迷うそぶりで言った。 「彩ちゃんの恋人って、もしかして女の子?」 「そう。彩は女子にしか興味がない、恋愛って意味ではね」 「なるほど」 「高良さんの周りにそういう人はいないの?」 「……うん。女子では初めて会った」  てことは、ゲイはいるって意味か。その割に鈍いな。 「でも驚いてないね」 「驚いたよ。でも彩ちゃんが平然としてるから、そういうもんかなって」 「彩はあんまり隠そうとはしないね。訊かれたら答えるって感じ。好きでもない男に迫られるくらいなら彼女持ちって言ったほうが話が早いからって」 「そういうことか。かわいいし、モテそうだもんね。……ああ、だから占いで結婚相手が決まる国に生まれなくてよかった、だったのか」  占いだと同性を結婚相手には選んでもらえないだろう。 「おれもそう思うよ」  意思をこめて微笑みながらそう言うと、高良はちょっと首を傾げた。  意味わかってる?  わかってなさそうだな。
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