第1章 シネマカフェ「カノン」

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 シネマコーナーに三人で残って、何となく顔を見合わせる。  ここで自己紹介するのもおかしいかな? ナンパしちゃう? 「ねえ、お腹空いたなー」  匠の逡巡にお構いなしに彩が屈託なく声を上げた。この店はドリンクメインで食事になるフードはほとんど置いていない。 「だな」 「カレー食べに行こうよ。ナン食べたくなっちゃった」 「それはわかる」  映画に出てくる食事シーンに刺激されたのだ。  「よかったら一緒に食べに行きません? すぐ近くに、おいしいインドカレーのお店があるんです」  初対面だし相手は年上の社会人だから、匠はダメ元で声をかけた。彩は意外そうな顔をして匠を見て、それから高良に目線を向けた。  高良は一瞬、驚いた顔をしたけれど、戸惑ったようすはない。匠はにっこり無邪気そうに笑ってみせた。きれいな顔立ちの匠がこの笑顔を見せると、たいていの人は警戒心をとく。 「いいですね。カレー好きですよ」  高良は匠につられるように笑顔を浮かべてうなずいた。  端正な顔立ちで真面目に話していた時は近寄りがたそうだったのに、そんなふうに笑うと親しみやすい雰囲気になる。 「じゃ、行こう。ほんとにすぐそこなんで」 「近くっていうとシャングリラ?」 「あ、知ってます?」 「会社、この近くだから」 「そうなんですね」 「島野さん、また来るねー」 「はいよ。ありがとうございました」  彩が島野に手を振り、三人で店を出た。通りを歩いてほんの二分で目的のインド料理店に着く。  四人席に案内されて、匠と彩が並んで座り、匠の向かいに高良が座った。
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