第1章 シネマカフェ「カノン」

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「匠くんもおしゃれだよね。いまの若い子ってそうなのかな」 「若い子って、高良さんいくつ?」 「今年二十七だよ」 「じゃ、六こしか違わないじゃん」 「二十代の六才差は大きいよ」 「そんなことないよ。一緒に酒も飲めるし映画も見るし」 「確かにそうだね」  高良は否定せずにうなずいた。 「この後カラオケ行くかも知れないし、恋愛関係になるかもしれないよ?」 「カラオケはともかく、恋愛は無理だろ」  高良はあっさり笑っている。彩との話だと思ってる? 「年下はダメ?」  おれはさりげなく目線を合せて微笑んだ。  彩は素知らぬふりでナンをちぎっている。もう高良がおれの好みで口説くつもりなんてことはわかっていて、内心ではおもしろがっているに違いない。 「ダメかどうかわからないけど……」  高良の目がちょっと泳いだ。  言葉を探すように口ごもり、ふっと赤くなる。  あれ、思ったより純情? こんなカッコいいのに? ちょっと揺さぶってみる? 「高良さん、カッコいいし、モテるでしょ? 彼女います?」 「いや、いないよ」 「じゃあ、彼氏は?」 「え、いるわけないだろ」  びっくりした顔で返事が来た。  そうですかー、いるわけないだろと来ましたか。でも高良さんはいける気がするんだよね、おれの直感的には。 「どっちにもモテそうなのに」 「そんなことないよ。それに恋愛スキルが低いからすぐ振られるんだ」 「へえ? それは意外」  追加のハイボールを頼んで、さらに突っ込んだ。 「何ていってフラれるの?」 「んー、何だろうね。でも本当にそんなにモテないし、あんまり恋愛経験ないよ」  困った顔でそう言った。その態度ははぐらかしているようには見えなくて、匠は本音を探ろうとじっと高良を見つめる。  マジかな、本当にあんまり経験ないのかも。ますますおいしい。 「ふーん。見る目ないね。おれなら高良さん、大事にするのにな」  しっかり目線を合わせて微笑むと、高良は慌てたように首を振った。 「いやいや、ないだろ。年下から大事にされるとか」  突っ込むとこ、そこなの?   無意識なんだとしたら、ほかの奴から目を付けられる前に、おれのにしちゃいたいところだ。
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