第1章 シネマカフェ「カノン」

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「ねえ、まだ時間ある? もう一軒飲みに行かない?」  断られるだろうと思いながらも誘ってみた。案の定、高良は困った顔になる。強く押されるのに弱いのかもしれない。 「いや、ごめん。明日も仕事あるし、今日はもう帰るよ」  でも断り文句ははっきりしていた。そりゃそうか、シネマカフェで会った見知らぬ学生と晩ごはんを食べるだけでもつき合いがいい人だと思ったくらいだ。ここらが引き際だよな。 「だよね。もう遅いし」  時計を見たら十一時近かった。  けっこう話してたんだな。  連絡先、訊いちゃおうか。  それともカノンで自然に会えるのを待つ?   年上の社会人なんてあまり接したことがなくて、勝手がわからない。  迷ううちに会計をして店の外に出る。奢ってくれようとしたけど、初対面だし、年下扱いされるのが嫌だったし、彩からお金を預かったので割り勘にしてもらった。 「今日は誘ってくれてありがとう。楽しかったよ」 「おれも楽しかった」  にこっと笑う顔を見たら、我慢できなくなった。  次に自然に会えるのを待つなんて無理だ。そんな悠長なこと、やってられない。  いいや、直球勝負で。  警戒されて切られても今なら別に傷つかない。 「ねえ、高良さんの連絡先、訊いてもいい?」 「え、ああ。いいよ」  かるくうなずいた高良がスマホを出した。ありがたく連絡先をもらいながら、警戒心のなさを不安に思う。 「そんな簡単に連絡先とか交換して大丈夫? おれが悪い奴だったらどうすんの?」  試しにそう訊いてみたら「匠くんは悪い奴じゃないから大丈夫」と返事が返ってきた。 「二時間くらい話してただろ、悪い奴かどうかはわかるよ」  ホントかよ。おれの思惑なんてこれっぽっちもわかってないくせに。でも無害な学生と思われたのならそれはラッキーだから、素知らぬ顔で笑っておいた。  駅まで十分ほどの道を一緒に歩いて駅前の駐輪場に向かったら、高良も自転車だと言うので驚いた。 「時間が不規則な仕事だから、自転車通勤できる家を借りてるんだ。いつもは会社に停めてるけど、カノンに寄るから駅前に停めておいたんだよ」  レンタルグリーンの営業ってそんなに時間が不規則なのか? 店の時間に合わせて配達したりするから? 「そうなんだ。おれはこっちなんだけど高良さんは?」 「反対方向だな。じゃあここで」  ここから匠の家とは反対方向へ二駅だと言う。  小さく会釈した高良に、匠は大きく手を振った。  試し読み 完 『小悪魔な君を拒めない』  2022年6月に電子書籍にしました。  ヘタレ未経験攻め×小悪魔誘い受けの攻防戦ww  紅さんに書き下ろして頂いた表紙がとても素敵なので、  ぜひご覧くださいm(__)  https://www.amazon.co.jp/dp/B0B4H9JVR3
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