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第二話 心当たりがある
運命だと思った。
コンビニの店員が、こう雨だと商売上がったりだとぼやいているのを聞きながら、ふらりと私たちの前に現れたひまりを見てそう感じた。
彼女の醸し出すオーラというか、佇まいを目にして、この人に選んでほしいと思った。
終日雨が降っていたので、私の兄弟たちとはお別れをすることになったが、どういうことか私は誰の目にも留まらず売れ残ってしまった。
ひまりは初めパステルカラーの傘を手に取ったが、少しの間ためらってから私のことをちらりと見た。
お願い、私にして。
そこら中にいるビニ傘より役に立つ自信が私にはあるわよ。
ひまりはほんの少し頭を傾げると、なんだか放っておけないというような表情をして私の持ち手を手に取った。
選んでもらえたことが嬉しくて嬉しくて、威勢よく体を広げてみたけれど、雨はもう小雨になっていて、私の役割を存分に発揮することができなくて残念だった。
けれど心の中で、ひまりには私をパートナーに選んでくれてありがとうという感謝の気持ちでいっぱいだった。
歓迎されていないということはすぐにわかった。
「覚悟を決めた方がいいよ」
ひまりに置いていかれたカフェの事務所にはお客さんが忘れていった物を保管しておく棚があって、私が入っている傘立てはその横の溝に、晴れている日は乱雑に置かれる。
「なまじ持ち主が迎えにきてくれるかもなんて期待してたらがっかりすることになるから」
どこからともなく声が聞こえてくると思ったら、どうやら忘れ物の箱の中から何かが私に話しかけていることがわかって、逃げ出したくなった。
薄暗い部屋に段々と目が慣れてきて、他の物の声も耳にするようになった。
「最近の人間は物を大事にしなくてけしからん」
カフェに置き去りにされた物たちは、彼らの持ち主をどうやら恨んでいるみたいだが、私はまだひまりが私をここに置き忘れた事実を受け入れられないでいた。
知らんぷりをしていよう。
ひまりが私のことを迎えに来ないと決めつけるのはまだ早い。
けれど帰りしな、彼女がなんとなく私の方に目をやったような気がしたことが心に引っかかって不安な気持ちを抑えられない。
私には人を見る目がある。
ひまりは戻ってきてくれるに違いない・・・。
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