入学式

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ちいちゃんと別れて、このまま家に帰ろうか、どうしようかと考える。 時計は5時半。 先生まだ仕事かなぁ? 高校は入学式が終わったばかりで、まだ本格的な授業は始まってないのは聞いている。 入学式の事、新しくできた友達の事、早く話したいなぁ。 電話してみようかな。 思いたって、携帯を取り出す。 2回目のコールで先生の声を聞く。 まさか、そんな早く出るかと思わなかったから、びっくりする。 「ごめん、仕事中だった??」 「いや、今家ついたとこ。」 「そうなんだ。」 「どうだった?入学式は。」 「女子ばっかりだったよ。」 「だろうな。」 電話口から、ふっと笑う声を聞いて、会いたい気持ちが膨らむ。 「会いたいな」 自然と口にしていた。 「会うか。」 え!今から?いいの?? 嬉しい!先生に会える! 「いまどこ?」 街にいる事を告げると、 「飯まだだろ?。食いに行くか。」 という、嬉しい誘い。 「うん!」 「じゃ、今から行くわ。」 先生に会える! ドキドキする気持ちが抑えられない。 先生とは、駐車場の広いコンビニで待ち合わせた。 雑誌をパラパラとめくりつつ先生を待つ。 駐車場に白い車が停まったのが見えて、雑誌を置いてコンビニを出る。 車の窓からは、タバコを吸っている先生の姿が見えた。 すぐに助手席に乗り込む。 先生はスーツ姿だ。 久々に見るスーツ姿にドキドキする私。 「よぉ。」 「こんばんわ。スーツなの?」 「あー、おまえから電話もらってすぐ家出たからな。着替えるのもめんどくせえなと思って。」 ぶっきらぼうに先生はそう言った。 いつもの先生だ。 クスッと笑みがこぼれた。 「腹減ったな。行くか。」 そう言って先生は車を走らせ、先生の家の近くのファミレスに向かったんだ。 「短大って、なんか思ってたのと違ったよ」 注文をして待つ間、タバコに火をつける先生に私は今日の出来事を話す。 「そーなのか?」 「うん。一応単位制ではあるみたいなんだけど、毎日とりあえず決まった授業を受けてたら いいみたい。後期からは選択授業とかも始まるみたいなんだけど。」 オリエンテーションで聞いた話を先生にする。 先生は首元のネクタイを緩めて、シャツの袖ボタンを外して、腕まくりをしながら、私の話に、「へぇ。」と相槌を打つ。 「もっと大きな講堂みたいなとこで講義受けるのかと思ってたけど、教室も普通だし。高校みたいだったよ。」 「そうか。」 「女子ばっかりで、びっくりした。」 「だろうな。」 先生はふっと笑う。 優しい笑顔を向けてくれる。 ぶっきらぼうなんだけれど、優しい。 そんな先生にドキドキする。 「ちいちゃんと同じクラスになったんだ!」 「よかったじゃねーか。」 そこは、素直に嬉しい。 「あとね、新しい友達も2人できたよ!」 「へえ。」 嬉しい事は伝えたい。 尽きない話に、先生も相槌をうちながら、聞いてくれている。 さくらちゃんと美香ちゃんの話をしたけれど、北高の弓道部だという事は、言わないでおいた。 弓道部と言ったら、きっと、先生も藤岡くんを思い出すような気がして、、、。 さくらちゃんと美香ちゃんは、北高から来た子、それだけで留めておいたんだ。 初芽ちゃんの話もした。 「浩介、二股かけるひどい男って北高で有名みたいで、きっと原因は初芽ちゃんだと思うんだよねー。」 「そーいえば、いたな、そんな女子。」 「うん。浩介、どうやって断ったのかなぁ。」 「二股かける男か。ひどい言われようだな。」 そう言って先生は笑っている。 「中島とはどうなったのかなぁ。浩介に聞いても、いつもはぐらかされて、教えてくれないんだよねー。」 「まぁ、うまくやってるんじゃねえの?」 先生とこうやって自然に話せるのが嬉しい。 周りから見たら、普通のカップルに見えるのかなぁ。 私は恋してる顔をしているのかな。 きっと、してるんだろうなぁ。 今日の4人の女子トークを思い出す。 「新しい友達とね、彼氏の話になってね。 付き合ってる人いるって言ったんだ。」 「ふぅーん。」 「ちぃちゃんが担任とか言い出しそうになるから、焦って止めたよ!!。ちいちゃんすぐ言っちゃうんだから!ほんと困ったよ!」 私が焦ったと話すと、先生は淡々と言ったんだ。 「言っちまえばよかったのに。なんも隠す事ねえのに。」 そんなぁ、、、と困っている私を見て、ふっと笑う先生。 「まぁ、そう簡単にもいかねぇか。」 先生はバレてもいいと思っているのかなぁ。 なんだか、その気持ちが少しくすぐったい。 「年上で社会人っていうのは言ったんだ。 9歳離れてるって言ったらみんな驚いてた。」 そう言うと、先生はまた笑う。 「そりゃそーだろーな。引かれたか。」 「ううん、そんなことないんだけど、すごいビックリしてた。」 そんなに驚かれるとは思ってなかったんだけどなぁ。 もちろん先生は大人なんだけど、こうやって話をしていると、あんまり年の差は感じない。 なんでだろう。 先生との距離が近くなったってことなのかな。 「まあ、普通に考えたら、驚くかもな。 だいたいおまえらの年代なら、27との接点なんて、ないんじゃねえの。」 確かにそうだ。 「すごい大人だねって言われたよ。」 「まぁ、大人だしな。」 そんな話をしていると、頼んでいた料理が運ばれてくる。 2人でご飯を食べながらも、話は尽きない。 「今度ね、高校に行こうってちぃちゃんと話してるんだ。高校の時OBで顔出す先輩とかいたから。」 「いいんじゃねぇの?千草も渡辺に会いたいんだろ。」 「うん。それもあるかな。でも、私も久しぶりに弓引きたいなと思って。」 「そーいや、渡辺部長なんだってな。 3年差し置いて、部長って、あいつそんなにうまいのか?」 渚は弓道部の部長になったってちいちゃんが言っていたのを思い出す。 「うん。経験1番長いし、誰よりもうまいよ。浩介も見込みがあるから、部長になってくれって頼んでたよ。」 「へぇー。今日廊下で会ったけど、無駄にやる気満々だったぞ。」 「そうなんだ。」 先生の話を聞いて、クスッと笑みがこぼれる。 やる気満々な渚が目に浮かんだから。 「短大は弓道部あるのか?」 先生が聞く。 「わかんない。あるのかなー。でも、部活ってなったら、きっと本格的だよね。」 「まー、そうだろうな。」 「やりたいけど、バイトもしたいしなぁ。」 今日ちいちゃんと帰り道で話してたんだ。 ちいちゃんはバイトをすぐ探すって言ってた。 私も何かやりたいなと思って聞いていたけど。 「あんまりこん詰めるなよ。バイトに勉強にって。おまえ、そんなにうまくできないだろ。」 先生は私のことをよくわかっている。 確かに、うまく両立できる自信もまだない。 本当によくわかってるなぁ。 「まぁ、ほどほどに頑張れ」 「はぁい。」 〜〜〜〜 「美味しかったー!お腹いっぱいだよ!」 私がそう言うと笑っている先生。 先生からしたら、まだまだ子供だよなぁ。 早く追いつきたい気持ちもあるけど、子供扱いされている今も、嫌じゃないと思ってる。 「じゃあ行くか」 「うん。」 車に乗り、家の近くまで送ってもらう。 「ありがとう。また連絡するね!」 そう、ドアを閉めて歩き出したその時、 運転席の窓を開けて、私を呼び止める先生。 「響」 急に名前で呼ばれてドキドキしながら振り向く。 「?」 「週末どっか行くか」 「え?」 「土日、どっちか暇?」 「どっちも暇!」 すぐにそう答えると、先生は優しく笑った。 「じゃあ土曜日。どっか適当にドライブでも行くか」 「行く!!」 即答する私にまた笑顔を見せてくれる。 「じゃあ、土曜日な。気をつけて帰れよ。」 そう言って車は走り去って行く。 デートだー!! 嬉しくて、跳ね上がる気持ち。 どこいくのかな? 何着ていこうかな? お弁当作って行こうかな? なんだか普通のカップルみたいだ!!と一人でハイテンションになる私。 こんなところがまだまだ子供なんだろうけど。 先生の言葉に一喜一憂してしまうんだ。 先生の事が大好きだから。 足取り軽く家路へと向かった。
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