春はもうすぐ。番外編

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家に着いて、スーツを脱ぐ。 楽な格好に着替えて、時計を見る。 まだ時間はありそうだ。 電話するか。 どーしてるかな。 響の姿を思い出す。 この前入学祝いをした時、俺からのプレゼントを喜んでくれていた。 入学祝いは何か贈ろうと前から考えてはいた。 たまたま入った店で、パスケースに目が止まった。 短大は地下鉄通学だから、使えるんじゃないかと思ってパスケースを選んだ。 本当はパスケースだけの予定だった。 だが、パスケースの隣に並んだ同じ柄のキーケースが目に入った。 キーケースか。 その時俺の頭の中には、ある考えが浮かんだ。 家の鍵も渡すか。 あいつには高校生の時から、色々我慢をさせてきた。 会いたくても会えない。 我慢ばかりさせて、辛い思いもさせてきた。 普通の高校生同士の付き合いをさせてやりたい と何度も思った。 本当に俺でいいのか、、、。 俺も悩んで、別れを選ぶ事も考えた。 けれど、それでもあいつは、俺がいいと言ってくれた。 卒業したら響の喜ぶことをしてやりたい。 あいつの望む事をしてやりたい。 もし、それが、家の鍵を渡すことで、叶えてやれるのなら。 鍵を渡したらどんな顔するかな、あいつ。 どんな顔をするのか想像しながら、キーケースも手に取った。 思いがけないプレゼントだったらしく、パスケースも、キーケースも響は喜んで受け取ってくれた。 ただ、家の鍵は相当困ったようだった。 困らせるつもりで渡したんじゃない。 一緒にいる時間が少しでも長くなればいい。 響の不安を少しでも減らしてやりたい。 堂々と一緒にずっといたいのは、俺も同じ気持ちなんだと。 それが、この鍵を持つことで少しでも叶うのならば。 重荷になっちまったかなとも思ったが、響は俺の気持ちを受け入れてくれた。 鍵まで渡しちまうなんてな。 後から冷静になって考えてみると、俺も独占欲の強いただの男なんだなと思った。 彼女から見れば、俺は頼りがいがあって、いつも冷静で、落ち着いていて、、、と思ってるかもしれないが、実際の俺は違う。 好きな女の前でよく思われたいだけなのかもしれない。 ただの普通の男だ。 携帯を手にして響に電話をする。 普通の男だから、ただ声が聞きたくて。 なにをしているのか気になって。 「もしもし」 いつもの響の声に安心する自分がいる。 「俺。」 冷静を装うが、声を聞くと無性に会いたくなる。 だが、今日はこれから浅葱と会う約束がある。 「仕事終わったの?」 「ああ。終わって帰ってきたところ。」 「お疲れ様」 お疲れ様と言われただけで、全身の力が抜けるのを感じた。 響には、俺をほっとさせる力がある。 「何してたんだ?。今日」 会わない分、顔を見ない分、響の行動が気になる。 「今日?。家でゴロゴロしてたよ。」 ゴロゴロしてたって。 ふっと笑みがこぼれる。 「飯食ったのか?」 「今から食べるところだよ。コウは?」 「俺は今から浅葱と飯食いに行くことになってよ。」 「浅葱先生??。」 「帰り際に急に電話きてよ。寝不足だから断ったんだけどな。半ば強引に。」 「そうだよね。昨日眠そうだったもんね。」 「面倒だけど、ちょっと顔だしてくるわ。」 本当にめんどくさい。 なんならこのまま響と会いたいくらいだ。 「面倒って。浅葱先生かわいそうだよ。」 響はバカがつくくらい本当に真面目な奴だ。 まっすぐで、俺もたしなまれるほどだ。 「そうだな。」 「でも、コウも疲れてるよね。あんまり無理しないでね?」 「あぁ。わかったよ。」 響の言葉がすっと胸に落ちる。 あぁ、やっぱりこいつが好きだな。 「じゃあ、行ってくるわ。」 「うん。行ってらっしゃい。」 響との会話で癒されていくのがわかる。 さて、行くか、、、。 体は重いが、まぁ、明日は休みだ。 支度をして家を出た。
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