春はもうすぐ。番外編

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6時半、居酒屋に到着すると、先に来ていた浅葱が「こっち!こっち!」と手招きする。 いつもの居酒屋。 いつものカウンターに腰掛ける。 「おまえ、いっつも突然だな。」 「そーかー?」 「塾講師は今暇なのかよ」 「いやいや、めっちゃ忙しいよ!浪人生受け入れで、今日も明日も仕事だって!」 塾講師もなかなか忙しいらしいが、こいつのバイタリティにはいつも驚かされる。 モツ煮と、おでんを頼み、タバコに火をつけた。 「耕作も忙しいのか?」 「いや、明後日入学式だから。それほどでも。」 「今年も3年受け持ち?」 「いや、今年は1年だな。」 「1年かー。1年って言ったら、ほぼほぼ中学生だもんなー。若いよなー。」 「そーだな。」 「俺も高1の授業持ってるけど、ジェネレーションギャップ感じまくりだよ!」 「俺ら27だからな。」 そう、俺らはもういつのまにか27年も生きているんだ。 「年取ったよなー!お互い!!」 そう言いながらビールを飲む浅葱は、俺よりも若く見える。 まぁ、確かに年はとったよな。 高校生からしてみれば、いい年をした大人なんだろうけど。 でも俺には18の高校卒業したての彼女がいて。 浅葱にその事を言ったら何て返ってくることか、、、。 「ところで、話ってなんだ?」 電話で言っていた浅葱の話したいことが気になった。 「そうなんだよ!!耕作!!聞いてくれよ!」 ビールも進み赤ら顔をした浅葱が、待ってましたと言わんばかりな口調で話し出す。 「俺、最近いいなと思うコできてさー。うまくいくかなー?なんて自分で期待してたんだよー!」 、、、あー、そっちの話だったか、、、。 なんだか聞くのが憂鬱になる話だ。 「それでさぁ、告白したんだよ!!」 「で?」 「、、、振られた。」 半分泣きが入っている浅葱にかける言葉もないが、、、。 「それはお気の毒に」 「なんだよー!俺絶対イケると思ってたんだよ!ご飯食べに行ったりドライブ行ったりさー。」 「へぇー。」 「もっと興味もってくれよー!!」 興味と言われても、、、。 「次探せばいーだろ。」 俺の返事に納得いかない様子で、浅葱の話は延々と続く。 「次!?!?次っていつだよ!!俺もう27だよ??やばいじゃん!結婚できるのか?俺!」 、、、知らねえよ。 と思いつつも、これ以上突き放すと、厄介だ。 「なんか出会いあるんじゃねえの?」 一応フォローしたつもりが、全く逆効果だった様で、浅葱はますますヒートアップしていく。 「塾講師に出会いなんてあるわけないだろう!!今回だって、やっとアパレル関係の合コンとりつけてもらって、やっとここまでこぎつけたと思ったのに!!」 ここまで炎上する浅葱を擁護する術はなく。 浅葱は大学の頃はそこそこモテていた。 大学の時は彼女もいたりしたんだが。 だが、アメリカ留学から帰ってきてからは、まるっきり女に縁遠くなってしまったらしく。 以前に、誰か紹介してやるくらいの事を言っていたから、それなりに女友達もいるのかと思っていたんだが。 最近は誰もいないらしい。 「おまえはいいよなぁ!!。」 お、なんだか流れがやばくなってきたぞと思った時はすでに遅し。 「彼女、何やってるコ?。耕作合コン頼むよ!!」 「はぁ??」 「いーじゃん!おまえ、友達差し置いて1人で幸せになろうとしてるんだろ??」 「知らねえよ。そんなの。」 「いーじゃん!ちょっとだけでもいーから!!幸せ分けてくれよー!」 おいおい、、、。 「ていうか、いつ会わせてくれんの?彼女に。」 確信ついてきやがった。 「そのうちな。そのうち会わせるよ。」 「でた!毎回毎回そのうちそのうちって!」 「そのうちな。そのうち。」 浅葱に会わせて、どうなるかなんて大体想像がつく。 浅葱は何だかんだ言って、真面目で人の道理に逸れる事を嫌う奴だ。 でも、きっとこの先避けては通れないのもわかってはいる。 試しに浅葱に聞いてみた。 「おまえ、年下ならいくつまで許容範囲?」 「年下なのか!おまえの彼女!」 まあ、隠せるわけもなく。 「、、、そうだよ。」 「なに、合コンセッティングしてくれる気になったってこと??」 浅葱は舞い上がっているが、、、。 「だから例えばの話。おまえが年下でもいいなら、話通すくらいはしてもいいけどな。」 「年下かー??。まあ、20超えてればOKじゃない??」 20か、、、。 あと2年は待てと言いたいところだが、そこは口をつぐんだ。 「まあ、今度聞いてみるわ。」 そう軽く流した。 「頼むな!俺にも幸せくれよー!!」 「はいはい」 酒は進む。俺はそんなに飲まないが、浅葱はこれで何杯目だ?と思うくらいなペースでビールを口に運ぶ。 「で、耕作は彼女とうまくいってんの?」 「まあまあ。」 「なんだよ、まあまあって!」 曖昧な俺の返答が気に入らなかったらしい。 まぁ、こいつになら、話してもいいかな。 「この前家の鍵渡した。」 「えー!!!耕作が、女に家の鍵!?」 目を見開いて驚く浅葱。 「なんだよ、そんな驚く事かよ」 「おまえ、絶対そんなことしない奴だと思ってた!!」 まあ、そーだな。 「俺もそう思ってたよ」 俺も自分がそんな事をするとは思ってなかったよ。 「めっちゃ惚れてるってことじゃん!。耕作、独占欲ありまくりだな!!」 独占欲、、、か。 そうだよ。 俺は独占欲もある普通の男だよ。 俺が何も言わないでいると、浅葱が嬉しそうな顔をしている。 「そーか!そーか!!耕作も普通の男なんだな!!!」 「、、、おまえ、俺を何だと思ってたんだよ」 あまりにはしゃぐ浅葱を見ていると、だんだんと腹立たしく思えてきたが、浅葱はこういう奴だ。 昔からこういう裏表のない奴なんだよな。 「なに、結婚とかすんの??」 浅葱から結婚という言葉が出て、少し間を置いて考える。 結婚、、、か。 正直な気持ちを浅葱に伝える。 俺は真剣に考えているから。 こいつに嘘はつきたくない。 「するよ。今すぐじゃないけどな」 浅葱のテンションがどんどん上がっていくのがわかった。 「耕作が、結婚とか!!マジか!すげーな! その彼女!耕作が結婚を考えるくらいのいい女だってことだろ??すげーよ!」 俺が結婚するっていうことは、ありえない話らしい。 「マジ彼女何者だよ!!」 何者って、、、。 テンションの高い浅葱にほとほと呆れながらこう答えた。 「普通の人。」 「今度絶対紹介してくれよな!!!」 「そのうちな」 2年後だな。 浅葱に紹介するのは。 そう心に留めておく。 2年たって浅葱が独り身だった時は合コンでもセッティングしてやろう。 そんなことを考えながら、浅葱との時間は過ぎていった。 浅葱との飯は2時間で終わる筈もなく。 店を出たのは11時を過ぎていた。 「じゃあな。」 浅葱と店で別れて、タクシー乗り場まで歩く。 上着のポケットに手を入れながら、足早に歩く。 4月になったというが、外はまだ寒い。 冷たい風が頬に当たる。 俺と響は新しい関係が始まったばかり。 これから何があるかは誰もわからない。 2人がどうなっていくのかも。 ただ、何かあっても、きっと2人で乗り越えていけるだろう。 その確信だけははっきりある。 桜はまだまだ咲く気配はないが、、、。 「春はもうすぐだな。」
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