春はもうすぐ。番外編

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入学式まであと2日。 また、新しい生徒が入ってくる。 今日は入学式の準備で仕事だ。 朝から眠い目をこすりながら、支度をする。 スーツを来て、家を出る準備をしているが。 眠い。 だるい。 この眠気の原因は、昨日の夜。 突然の訪問者が長居したからだ。 昨日適当に晩飯を食って、テレビを見て一人でくつろいでいたところに、あいつはやって来た。 ピンポーン 「よお!!」 「げ。またおまえかよ。」 「げって何だよ!!卒業生がこうやって来てやってるんだぜ!!こんな慕われて嬉しいだろ!ちょっとは嬉しそうな顔しろや!!!!」 そう、突然の訪問者は、元、生徒の川合だ。 「何の用だよ」 「いやさー、予備校の授業予習してんだけどよー、ちょっとわかんねぇとこあってさー!」 「隣いけ、隣」 中島さんの家に行くように促す。 「いや、隣はいーんだって!。んじゃ、邪魔するぜー!」 、、、本当にこいつは。 いつも突然やって来て、人の時間を潰す。 「あ、俺コーヒーね。」 「あぁ?自分で入れろ」 「なんだよ!冷てえなぁ!」 元とはいえ教師に対する態度じゃねえし。 「で?どこだよ、わかんないとこ。さっさと教えてやるから早く帰れ」 「冷てぇな!もっと優しく教えてやろうとか思えよ!」 本当にこいつは、、、。 一応コーヒーを出し、テーブルに講義の教科書を広げたが、川合はテレビに釘付けで、一向にやる気が見られない。 「おまえ、来年落ちるぞ」 「いや、受かる!」 何を根拠に、、、。 こうやってテレビを見て笑っている時点で、来年の合格も怪しいと思わずにいられない。 だが、こいつの切り替えの力はすげえと思うところもある。 やる時はやる。 そういう奴だ。 だが、このまま時間を潰されるのも、腹だたしい。 「おまえ、何しに来たんだよ。ったく。 勉強しないなら早く帰れ。」 「あ、そうそう、これ持ってきたんだよ!!」 人の話を全く聞かず、カバンから何を取り出すのかと思えば、、、 またゲームだ。 「新しいパワプロ出たんだぜ!」 野球好きの俺にとっては、少し気にならない訳もないが、時計を見れば7時近くだ。 勝手にゲームをセットしてやり始める川合。 「おまえ、、、今日も長期戦だろ。」 もはや呆れて何も言葉が出ない。 「やろーぜ!!」 「やんねーよ。」 「おもしれぇよ、これ!」 そう言い、1人でゲームを始めた。 ぼーっとその画面を座椅子に座りながら、見ている。 、、、下手すぎる、、。 なんで、そんなストレートばっかで責めてるんだ、こいつは。 打たれまくってる画面をみていると、タバコの本数も、進み、、、 「貸せ」 「お、やんの??」 コントローラーを奪ってしまった、、、。 この時点で、俺はしまったと思ったが、、、 もう遅い。 やられた、、、。 まんまと川合の策略にはまっちまった。 「じゃあ、俺守備変えるわ!」 こうやって時間はどんどん過ぎていき、、 「じゃあ!また来るわ!!」 「もう来るな」 満足気な表情をして、川合は帰っていく。 「ったく、何しに来たんだよ。」 時計は10時を過ぎていた。 川合が帰ると、玄関先からエンジンの音がする。 あぁ、中島さんが車を出したのか。 あぁ疲れた。 風呂でも入るかと背伸びをする。 すると、台所で置きっ放しの携帯が鳴っている。 携帯を見ると、着信が3件あったことに気づく。 「あ、やべぇ。」 着信は全て響からだった。 パワプロに夢中になっていて気がつかなかった。 今の着信はメールだったようで 「出かけてる?」という文字を目にする。 すぐさまかけ直す。 「もしもし」 「あぁ、俺。川合が来ててよ。電話気づかなかった。悪かったな。」 「浩介?なんで??」 「勉強教えてくれという口実で、ゲームに付き合わされてよ。」 「ゲームしてたんだ」 電話の向こうではクスクス笑う響。 響の声を聞くと、ほっとして、今までの疲れがどっと出る。 「疲れたでしょ?。明日仕事なんだよね? 早く寝て?」 「ああ。わかった。悪いな。」 響の心遣いに感謝する。 「おやすみ。」 電話を終えると、布団になだれ込んだ。 風呂、、めんどくせえ。 明日にしよう。 とりあえず目を瞑る。 目を瞑ると、響の顔が浮かんだ。 そのまま朝を迎えて。 そして冒頭の朝になる、、、というわけだ。 「眠いな、、、ったく、川合のやつ。」 あくびをしながら、家を出た。 学校に着いて、新入学生の名簿を見る。 今年度は1年C組の担任を任されている。 また学校が始まる。 いつもの日常なんだが、これからはもう、今までの鮮やかな光景はないんだと思うと、少し隙間風が吹いた様な感覚だ。 響が卒業したんだ。 毎日いつも顔を合わせていたからな。 もうここで毎日会えないというのは 多少の寂しさもある。 卒業してくれて嬉しいのはやまやまだが、 毎日顔を合わせていたから、どこか安心していられたというのもあるだろう。 気づかないうちに、それだけどっぷり浸かってたってことか。 年甲斐もなく、高校生の、いや、響の真っ直ぐな心に惹かれていった。 いつのまにか、失いたくない存在にまでなっていた。 そんな彼女はもうここにはいない。 新しい名簿を見ながら、そんなことを思う。 まぁ、今日からまた普通の業務をやるだけだ。 気持ちを切り替え、背伸びをした。 それにしても眠いな。 コーヒーを入れ、自分の席に戻るが、あくびが止まらない。 「おはようございます。あら、早いですね。」 職員室に入って声をかけてきたのは中島先生だ。 「おはようございます。」 「あら伊藤先生、眠そうですね。」 今のあくびを見ていた口ぶりだ。 「そうですか?」 「昨日眠れませんでした?」 ふっと含み笑いをされる。 試されているかの言い様だ。 「そうですね。誰かさんとゲームに散々付き合わされたもので。」 わざとらしく言ってやる。 「ふふっ。楽しかったようですよ?」 そう言って中島先生は自分の席に着き、鞄から出したハンドクリームを手に塗っている。 この人は、、、。 本当につかみどころのない人だ。 まぁ、少しは変わったのか。 年下の男に振り回されているのも、楽しくなってきているのか。 まぁ、何にせよ、川合の突然の襲撃には困ったもんだな、、、。 職員室には次々と教師が集まり、日常が始まっていく。 入学式の段取り説明やら、オリエンテーションやら、入学式に向けてやることは山積みで、 ふぅっとため息がこぼれた。
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