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   「ちわっ! 差し入れ」 「サンドイッチだ!」 「お前好きだよな、これ。店に食いに来いよ、奢ってやる」 「……外に出たくない」 「まだ引きこもり続けんのか? まあ、気が済むまで中にいろよ。しっかり飯は食わせてやる」  惣介は暇なわけじゃない。朝6時半には起きて、バイクで40分ほどかかるなんとかっていう工場で働いている。 (なんとか……あ、段ボール作ってるって言ったっけ)  人呼んで『命の恩人』という名の惣介は、そこを4時に上がってその足でこっちに向かう途中の喫茶店でウェイターをやっていると言っていた。  圭はあれきり外に出ないからそれがどこなのかを知らない。  誠一はやっぱり一緒に住むと言い始め、必死にそれをお断りして取り敢えず帰ってもらった。 「俺が見てるって。任せとけよ」  なぜか惣介が請け負って、それで圭から合鍵を分捕り家事をいろいろやってくれる。圭も不思議には思っているのに、それがなぜかを聞いていない。  チャンスがあれば と再度自殺の機会を狙っているが、今はすっかりモチベーションが下がってしまってあそこまで気持ちが高まらない。  だからこうやって好きなサンドイッチを配達してもらって、惣介の淹れるコーヒーを飲んで、惣介の洗ったバスルームでシャワーを浴びる。 「洗濯どうする?」 「それは自分でやる」 「いいことだ、一つでも自分でやるってことは。あとして欲しいこと、あるか?」 「明日はリンゴが食べたい」 「分かった、リンゴな。朝飯は冷蔵庫にピラフを入れた。食いたくなったら温めてからにしろよ。じゃな」  ベタベタとしてくるわけでもない。不思議な気持ちになる、何が彼を衝き動かすのか。互いにほとんど自分の事情ってものを話してないし、誠一も曖昧にしか圭のことを惣介に話さなかった。  惣介も不思議に思っている。あれだけのことがあったのに、圭の身内は誠一しか来ない。 (何かあんだろう。プライベートなことだしな) 大雑把だから惣介の中ではそれで終わっている。 「あ!」  深夜、自分の家に入ってがっくりと床に座った。大きな明るいブラウンのラグの上に座る。ソファなど無い。寝るのもそのまま分厚い毛布か薄い肌掛けか、そんなものを被って寝る。枕は一つっきりの座布団を折って使う。  万事にその調子の惣介が思い出したのは、どうってことないが気になっていること。 「またあいつの年聞くの忘れたよーー」  誠一に聞けば済むことを惣介なりの気遣いで本人に直接聞きたいわけだ。 「しゃあない、明日!」  ラグに手をついて床を眺める。 「きれいそうだ。掃除は明日だな」  圭のところはちゃんと掃除をしてやるのに、自分のところはどうでもいいらしい。   
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