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  ――なんだか騒がしい ――どうして? ――ここは静かで花が咲いて 小鳥が鳴いて 川のせせらぎが聞こえるはず ――けれど僕は苦しくて ただただ喉が酷く痛くて痛くて 「じゃ、彼の知り合いというわけでは無いんですね」 「引っ越しの挨拶に行っただけだよ。何回も行くのが嫌だったからずっとインターホンを鳴らしたんだ。中からなんかの倒れる音と割れる音がしたから思わずドアノブを回したら」 「開いたというわけですか。本当に挨拶に行っただけですか? あなたが彼の部屋に入ったのは2時2分と言ってましたね?」 「2時ちょうどに部屋を出て2分くらい鳴らし続けたからな」 「しつこっ! でも通報したのは2時7分だった」  メガネをかけたスーツの青年。若い刑事だと思いながら半分怒って事実を話す。紺色のスーツに紺色のネクタイ。髪はきちんと短くてたまにメガネを右手の人差し指で上げる。  結構それがサマになっているのが何となく気に食わない。 「何が言いたいのか分かんないんだけど」 「5分も中で何をしてたんですか?」 「普通驚くよ、最初は酔ってんだと思ってたし。アルコールの匂いが充満してたから」 「でもテーブルに錠剤が零れてたんですよね?」 「あのさ、今は口臭止めとか似たような粒があるだろ? 俺はずっと健康だから薬だなんてピンと来なかったんだ」  メガネはちょっと考える風だ。そう言えば名刺をもらっていないと、そんなことに今頃気づく。惣介(そうすけ)は結構大雑把な性格だ。 「質問を変えましょう。なぜあなたはここにずっといるんですか?」 「だって、気になんだろ、助けた相手がどうなるかって。引っ越して挨拶行って目の前で死なれたなんて、あんたがそんな目に遭ったらどういう気持ちになる?」 「でも他人ですからね」 「なんだと!? 『袖振り合うも多生の縁』って知らねぇのか!」 「ずい分古いこと言いますね。『たしょう』って言う字、ちゃんと書けますか?」 「バッカじゃねぇの?」 ――うるさい ――おかしい、僕はどこに来たんだろう ――知らない声と 知らないような気がする声が ずっとそばでお喋りしてる 「あ、目が開いた!」 「ほんとだ、ちょっと! 看護婦さん!」 「ナースコール押しゃいいだろ? さっきまでやたら冷静に突っ込み入れてたのに間抜け」 ――くすっと笑った ――可笑しい 『間抜け』 すごく可笑しい ――ふわふわとして、そのうち喉が痛くなって苦しくて胸を掻きむしっていい気分はどこかに行ってしまって、要するに具合が悪い 「何とかしてやれよ! 苦しがってるだろ!」 ――うん、なんとかしてほしい 「口に突っ込んでるもんが辛いんじゃないのか? 取ってやれよ!」 「そうはいかないんです。先生の許可が無いと」 「じゃ呼べよ!」 ――誰だか知らない人、ありがとう ――でもすんなり逝けると思った僕が浅はかっだのかもしれない ――いやだな、反省しながら逝くなんて ――そう思いながら また眠くなっていく……     
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