2/5
120人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ
   外に出ない分、あれこれ考える。この頃は惣介のことを考える時間が増えてきた。謎に満ちているのに、直に聞くのを避けてしまう。避ければ避けるほど気になって仕方ない。  惣介は快活だ。大きな声で喋り、大きな声で笑う。でも溜息を小さく突くとすぐに黙ってくれる。  冷蔵庫を覗いて飲み物を確かめてくれる時の背中がいいと思う。力仕事をしているだけあって、体つきが逞しい。髪は長めでいつも後ろで結わいていた。 (長いこと伸ばしてるみたいだな)  一度卵を冷蔵庫から出そうとして手が滑り、しっかりキャッチしたのはいいが手の中で潰してしまった。卵は惣介の腕を伝い、ジーンズを伝い、裸足の足に黄色い色を付けた。 「悪い、風呂借りていいか?」 「いいよ。今日はスクランブルがいいな」 「オッケー」  風呂上がりで髪を拭きながら腰にタオル一枚巻いて出てきた惣介に、なぜか胸がツキンときて目を逸らした。  それから時々、惣介の背中を見るとツキンとすることがある。なぜ背中かと言うと、正面をなんとなく見づらいから。ふと目が合ったりするとなんだか落ち着かない。だからあっさりと帰ってくれるこの距離感が気に入っている。  互いに相手のことはぼんやりとしか知らないまま、いつの間にか落ち葉の季節は越えていき、冷たそうな風が吹くようになっていた。   
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!