3.ブラッタ婆

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3.ブラッタ婆

 スラム街――もちろんルルにとって良い思い出など全くなかった。いつもジメジメと湿っていて一日中何かの腐ったような臭いがする。住人たちは常にイライラとしていて絶えず何かに怒っていた。  このままずっとこの街で暮らしていくのかと考えると気が滅入った。マトモな食事を摂ることすらできない。育ち盛りの、ましてや食いしん坊のルルにとってはそれが一番つらかった。迎えに来ると約束してくれたネウロ爺さんは一向に現れない。一か月を過ぎる頃にはすっかり諦めの境地であった。  ルルがスラム街でブラッタ婆と暮らしていたのはおよそ一年ほどだった。会話らしい会話もしたことがなく、ブラッタ婆自身の話など聞いたこともない。だが、一つだけ覚えていることがあった。 「あたしだってホントはこんなとこでこんな暮らしをしているはずじゃなかったのさ」  何度かそんなセリフを聞いた。  その後ルルは思いがけないテオとの出会いによってそんな街を出られることになる……。  話はルルとテオがスラム街から立ち去ろうとしていた、まさにその時に遡る。 「そうそう、その子の名前はルルティアっていうらしいよ!あたしが聞いてるのはそれだけさ」  ブラッタ婆は立ち去ろうとしていたルルとテオにそれだけ伝えるとさっさと家の中に入っていった。大金をもらったことが近所の連中に知れたら大変だ。一人ほくそ笑みながらギシギシと音を立てる木の椅子に腰かけると前掛けで金貨を磨き出す。 「まさかあの厄介者が金貨に化けるなんてねぇ。人助けはするもんだね」  ルルにしていたひどい仕打ちはすっかり頭から消えてしまったようだ。執拗に金貨を磨きながらふとルルが連れて来られた日のことを思い出す。
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