はじまりの日

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 雨はすっかりと止んでいた。 流れ行く薄い雲から透ける夜空に、小さな星が瞬いていた。  雨に洗われた後だからか、見上げた聡の目には、それがとても光輝いて見えた。 星を見ること自体が久し振りだと思い、ふと、聡は右隣を歩く和の目にはどう映っているのかが気になった。  身長の高さだけではなく、きっと自分とは違って見えているに違いないと、思った。 和もわずかに、首を上へと傾げている。  今は午前中とは違い、傘を差していないので、聡の右腕と和の左腕とはほとんど触れそうなほどに隣り合っていた。 ――手をつないでいないのが、かえって不自然な近さだと、聡は思った。  いくら夜も更けてきたとは言え、人通りはそれなりにある。 そして何よりも、目と鼻の先に聡が勤め、和がつい一か月半ほど前まで入院していたリハビリテーション病院が在った。  和もそのことを分かっているのか、それ以上は距離を詰めてこなかった。 病院が在る方向を何とはなしに見ていた聡に、ふいに和が言った。 「――センセイ、病院辞めるの?」  引っ越すと告げただけで、寄り道なく最短距離で正解へと至った和の頭の良さに回転の速さに、聡は改めて驚いた。 そして、あくまでも事実なので、極めて平らかに答える。 「あぁ。今、引継ぎの真っ最中だ」  そんな聡とは対照的なほどに、和は(うかが)うように、恐るおそるたずねてきた。 「もしかして・・・・・・白河医師(しらかわセンセイ)とのこと、バレたの?」 「まさか!そんなんじゃないよ。全然違う」  片手をひらめかせ、笑ってまで聡が答えたというのに、和の表情は晴れなかった。 さっきまでの空模様と同じ、今にも雨が降り出しそうな曇天そのものだった。  整ってはいるが、まだまだ子供じみたところもあるその顔を、心配で曇らせたままで、和はなおも続ける。 「それとも・・・・・・おれとのこと?」 「(なぎ)――」
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