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その拗ねた言い様とくすぐったさとに、聡は思わず笑いそうになったが、何とか抑えて答えた。
「言われたことなかったよ。宗司郎さん、――白河医師はその、色いろと忙しかったから、正直、それどころじゃなかった」
件のホテルにも泊まるどころか、三時間設定の休憩時間すら使い切ったことは一度もなかった。
それでも月にだいたい三度ほど、一時間だけでも白河と二人切りで会えれば、聡はうれしかった。
幸せだと感じ、そうだと信じていた。頑なまでに。
でも、改めて思い返してみると、やはり寂しかった。
今では素直にそう、認めることが出来る。
和のおかげで――。
そんな和への想いを込めて、聡もまた、真っすぐに白状をした。
「実は、おれも新記録だ。こんなにいっぱいしたのは、和が初めてだよ。その・・・すごく、よかった」
あんなに欲しがられて求められたのは、和が初めてだった。
そんな和に応じることが出来た自分に、聡は自分でビックリして、――うれしかった。
「センセイ――」
和の目の光が、声の調子が一瞬で変わったのが、聡には分かった。
「だから!その、センセイって言うのはいい加減――」
やっと気が付いて、反射的に自分から離しかけた聡の体を、和は再び抱き寄せ、だき込んだ。
腕の胸の中へと、完全に閉じ込めた聡にそっとささやき掛ける。
「記録更新、してもいい?」
「・・・・・・」
重なり合っている和の、男にとって最も正直な箇所が、聡のへと直接訴え掛けてくる。
「聡――」
確信犯なのか天然なのか、和は切羽詰まった切ない声で聡の名前を呼んでくる。
ダメ押しをしてくる和に、聡は黙って口付けで応えた。
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