十八才のバースデーディナー

9/9
61人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
 顔を口をずいっと近付けられれば、無視することも出来ない。 いわゆる「はい、アーン♥」を、聡は、したこともされたこともなかった。  一応、知識?としてだけは、される方が目を閉じるのは知っていた。  しかし、和は目を開けていた。 人の心へとスルリと入り込んでくる、鋭く魅惑的な視線で聡を捕らえている。  聡は、広げる前の扇の形に切られたピザを掴んだ。 幸いにして、乗っている具材は、フレッシュバジルと薄切りにしたサラミソーセージとだけだったので、難なく二つ折りに出来た。  それを聡は、開いている和の口元へと持って行った。 まるで、その視線に手繰り寄せられるようにして――。  きれいに揃い並んだ、白い前歯が見える。 子供の内に、矯正したのかも知れない。と思い、聡は改めて、和が大切に育てられてきたのを感じた。  唇に残ったトマトソースを拭うためにひらめかせた舌で、和が言う。 「センセイのも、美味しい」 「・・・・・・」 「残りも食べちゃっていい?」  聡は無言でうなずいた。 もう、和に口を突き出されなくても、ピザの最後の一切れを折り畳んだ。  満面の笑顔で、大きく開いた和の口へと持って行く。 あっという間に、チーズとトマトソースと小麦粉との塊とが吸い込まれていくに、聡はただただ見惚れた。  すっかりと食べ終えた和の、笑った口元に残っていたトマトソースを、今度は聡が口付けで拭い取る。 「センセイ――」  聡が手を添えた和の頬は、トマトソースほどではないが、ほんのりと赤みを帯びていた。 かけていないのだから、タバスコのせいではけしてあり得ない。  聡のもまた、そうだった。 その赤い頬で顔で、聡は告げた。 「おれは、和が食べたい・・・」 言い終えてすぐさまに手を視線を外すのが、聡らしいと言えば、らしい。  和はそんな聡の横顔を黙って眺めていたが、両腕を伸ばして頭を抱えた。 そして、前へと自分の方へと向かせる。 「いっぱい、食べていいよ――」  ピザの味など跡形もなくなるくらいほどに、聡は和とキスを繰り返す。 次第に血と熱とが上っていく頭の片隅で、そうは言われても、食べられるのは自分の方なんだろうな。と聡は思っていた。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!