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顔を口をずいっと近付けられれば、無視することも出来ない。
いわゆる「はい、アーン♥」を、聡は、したこともされたこともなかった。
一応、知識?としてだけは、される方が目を閉じるのは知っていた。
しかし、和は目を開けていた。
人の心へとスルリと入り込んでくる、鋭く魅惑的な視線で聡を捕らえている。
聡は、広げる前の扇の形に切られたピザを掴んだ。
幸いにして、乗っている具材は、フレッシュバジルと薄切りにしたサラミソーセージとだけだったので、難なく二つ折りに出来た。
それを聡は、開いている和の口元へと持って行った。
まるで、その視線に手繰り寄せられるようにして――。
きれいに揃い並んだ、白い前歯が見える。
子供の内に、矯正したのかも知れない。と思い、聡は改めて、和が大切に育てられてきたのを感じた。
唇に残ったトマトソースを拭うためにひらめかせた舌で、和が言う。
「センセイのも、美味しい」
「・・・・・・」
「残りも食べちゃっていい?」
聡は無言でうなずいた。
もう、和に口を突き出されなくても、ピザの最後の一切れを折り畳んだ。
満面の笑顔で、大きく開いた和の口へと持って行く。
あっという間に、チーズとトマトソースと小麦粉との塊とが吸い込まれていくに、聡はただただ見惚れた。
すっかりと食べ終えた和の、笑った口元に残っていたトマトソースを、今度は聡が口付けで拭い取る。
「センセイ――」
聡が手を添えた和の頬は、トマトソースほどではないが、ほんのりと赤みを帯びていた。
かけていないのだから、タバスコのせいではけしてあり得ない。
聡のもまた、そうだった。
その赤い頬で顔で、聡は告げた。
「おれは、和が食べたい・・・」
言い終えてすぐさまに手を視線を外すのが、聡らしいと言えば、らしい。
和はそんな聡の横顔を黙って眺めていたが、両腕を伸ばして頭を抱えた。
そして、前へと自分の方へと向かせる。
「いっぱい、食べていいよ――」
ピザの味など跡形もなくなるくらいほどに、聡は和とキスを繰り返す。
次第に血と熱とが上っていく頭の片隅で、そうは言われても、食べられるのは自分の方なんだろうな。と聡は思っていた。
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