🍀 M I E L 🍀 小さな猫のおはなし

🍀 私の家 🍀

温かな手にふわりと包まれて目が覚めた。

人間の手の感触にまだ慣れていない私は、眠っていたせいで心の準備が出来ていなかった事もあり、反射的に逃げ出そうとした。

柔らかなその手は私の体を無理に繋ぎ留めようとはせず一旦緩めて声をかけた。

「チビちゃん、起こしてごめんね‥」
「もう少しで出来るからリョウの所で待っててね」

ケイはそう言うと私をリョウに預けた。

チビちゃんって‥私のこと？
一般的に人間は自分達より小さな生き物をチビとかチビちゃんとか言うことがある。

リョウは丁度お風呂から上がりタオルで頭をゴシゴシと拭きながらリビングに入ってきたところだった。
やはりリョウの姿を見ると安心する。

「よぉし、チビ！ 、こっちにおいで‥」

‥ほら、またチビっ‥て‥

私の名前はもしかしたら‥
もう「チビ」に決まっているの？
なんかそのまんまだなぁ‥
人間って意外と想像力に乏しい‥
私は少し不満だった。

トマトソースのいい匂いがすると思ったらダイニングテーブルの上に大盛りのハヤシライスとエビとレタスのサラダが用意してあった。
エビの美味しそうな匂い、堪らない‥

山田さんからキャットフードを貰う前はお母さんに教わったやり方で簡単な狩りは出来るようになっていた。
だから野原で獲れる小さな獲物の味は少しだけ知っていたし、さっきケイに貰ったキャットフードよりも人間の世界には美味しい物が沢山ある事も知っている。
かといって人間の食べ物に興味はあっても沢山食べる気はしない。

リョウは椅子に置かれた柔らかなクッションの上に私を降ろすと、その横の椅子に腰掛けるや否や缶ビールを美味しそうに一気に飲み干した。
山田さんのご主人と同じだ。

私は美味しそうなエビの匂いが気になりながらもケイの作業をリョウの隣から興味深く見つめた。

ケイは手際よく段ボールを2段に重ね、あちこちに穴を開けたり紐を吊るしたり綺麗な模様の紙を貼りつけたりと、とても楽しそうだ。

「さぁ！今日はこれくらいにして続きは遊びながら少しずつ完成させようね」

「じゃーん！そして、これはチビちゃんのベッド」

それは私より一回り大きな箱にふかふかのクッションが敷かれた、いかにも寝心地よさそうな手作りベッドだった。
この先、ケイは私の為に何個もの段ボールベッドを作り部屋のあちこちに置くことになる。
それらはどれも同じものはなく、ケイの作る物は毎回どれをとっても面白く私を満足させた。

リョウの部屋は離れにあって、食事を終えたリョウは眠そうな顔でさっさと自分の部屋に行ってしまった。

ケイは自分のベッドの真横に寝室の椅子を運びその上に手作りベッドを置いた。

「今日からここで一緒に寝ようね」

「あっ‥チビちゃん‥名前‥考えなきゃね」

‥わぁ！本当に？

私の名前チビじゃないんだ‥
想像力を働かせて素敵な名前にしてねケイ。

私を見つめ嬉しそうな顔のままで眠りにつくケイ‥
ケイも疲れたんだね私もクタクタだよ‥

寝落ちする瞬間、ふっと私の頭に一つの疑問が浮かんできた。

山田さんちにはご主人がいたけれど‥
ケイのご主人はどこだろう‥

答えを導き出す前に、私は今度こそ眠気に逆らえず安心と疲れでふかふかのベッドのなかで深い眠りに就いた。