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スマホとパソコンが普及して当たり前になった時代。
駅前にはビルが立ち並び、多くの人間で賑わっている。
そこに、一人でぽつんと立っている少女がいた。
くるぶしまで隠れる黒いワンピースを着ていて、少女が五人は入りそうな大きく黒い日傘をさしている。
「…暑い。ここが別の世界なのか」
少女の呟きは、周りの雑音にかき消され、誰の耳にも届かなかった。
少女のいたところから電車や新幹線を乗り継いで三時間はかかる場所にその学校は存在した。
人ひとり住まない山を切り開いてつくられたその学校は、今日入学式を迎えている。
といっても、普通の入学式ではない。
この学校、国立超能力研究所付属高等学校は今年から始まったので、一、二、三年生全員の入学式なのだ。
国立超能力研究所も五年前にできたばかりだが、この研究所や高校の存在は世間に全く知らされていない。
混乱を招かないとか利益を国だけにとかそういうことなのだろう。
そもそも超能力が発見されたのも今から六年前だった。世界中の一部の子供にいわゆる超能力が発見され、今では生まれたときから遅くても二十歳までには超能力がなくなることがわかっている。日本で産まれた子の六人に一人が超能力をもっているといわれる。
ただし、なぜ六年前にいきなり発症したのかはわかっていない。
研究をさらに進めるため、そして、超能力があることを世間に知られないために、研究所ができた頃から子供たちが集められ始めた。そして、ついに全国に三十校ほどの高校がつくられた。ちなみに、幼稚園や小学校、中学校、大学までつくられているところもあるが、ここには中学校が隣にあるだけだ。
幼稚園以外全寮制で、親には高いお金が支払われる。
しかも、高い教育が全て無料で受けられるから、親たちには選ばれる子供の親が羨ましいらしい。
だが、国がつくった、幼児ながら高い知能をもった子供が集まる学校、というのはあくまで世間体で、本当は超能力をのばし活用するための学校だ。
「…入学式を終わりにします」
眼鏡をかけた教頭が女性にしては低い声で告げた。
(やっと終わった…)
心からほっとしたのは、上地ゆりあ、高校一年生。
彼女は六年前に発症した超能力のせいで人が大勢いるところが苦手だ。
なぜなら、周りの人の思考が伝わってきてしまうからだ。周りの空気を読めるのは良いのだが、人の心の機微を読みすぎて、気味悪がられることもある。
ゆりあは、いわゆる、超感覚的知覚の中のテレパシーと呼ばれるものをもっている。
<眠い…>
<話長すぎ>
<前の子超美人なんですけど>
などなど、さっきから周りの心の声が伝わっているから、ものすごく疲れていた。
(美人な子は、美乃ちゃんだろうけど…)
美乃、というのは北城美乃、同じく高校一年生。
ゆりあの幼なじみで、とても可愛い女の子だ。
互いに超能力をもっていると気づいたのは一年前、研究所の診察時に、ばったり出会ったときだった。
昔を懐かしんでいると、どよめきが伝わってきた。
周囲のスピードに合わせて後ろを振り向くと、テレパシーで伝わってきたのと同じ光景が広がっていた。
講堂に一つしかない大きなドアが開いていた。
ドアの向こうに立つのはちょうどゆりあと同じくらいの年の少女。黒くて長いワンピースと少女には大きすぎるような日傘をもって仁王立ちしている。
「ちょっと、結城さん…」
若い女の教師らしき人物が少女を追いかけてきた。
少女は振り返らず、仁王立ちしたまま。
少女は、長く色素の薄い髪を揺らして、赤い眼でこちらを睨むような感じで見ている。
(綺麗な眼…)
ゆりあが見とれてぼーっとしている間に、少女は教師によって職員室に連れ去られていた。
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