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「結城さん、怖くないの?」 「怖くない」 結城さんの感情から恐怖は読み取れない。そもそも何も伝わらないから、関係ないのだろうけど。 結城さんは相変わらず無表情で黙々と懐中電灯片手に足音もたてずに歩いている。 わたしと美乃ちゃんは、結城さんの後ろを怖々としながらゆっくり辺りを見回して歩いている。 夜の学校って静かすぎて結構怖い。 中学生のとき(中学は普通の公立だった)、三年生が卒業したあとの三年生の教室が並ぶ廊下みたいな。 窓からは山の中らしく月とたくさんの星が輝いている。わたしがそんなことを考えていると、 「次はどこに行く?」 結城さんが言った。 「もうほとんど校舎の方は見終わったから」 「うーん、講堂は?」 わたしは提案する。もうわたしが知っている校舎と寮は見終わったし、あとは講堂だけだから、というのが理由だ。 「いいね、講堂にしよう」 美乃ちゃんが言った。 「わかった」 みんなで階段を降り始める。 この高校は、一回外に出ないと講堂に行けないのだ。 築三ヶ月とは思えない荘厳な外見の講堂に着いた。 静かに鍵を開けてドアを開ける。 すると 「何…あれ、血?」 「もしかして、須々木菜々さんって…」 中に血まみれの女子生徒が入り口のそばで倒れていた。 「二人とも、須々木さんの方へ」 わたしたちが中に入ろうとすると、 「!?」 目の前に黒い影のようなものが現れた。 「キミガリリアナンダネ。コレカラモヨロシクネ」 そう言って影が去っていくように見えた。 しかし、 「アレッジ」 結城さんが言うと、影が動きを止めた。 しかし、次の瞬間には影が跡形もなく消え去っていた。 「ごめん、二人とも。逃がした。でも、須々木さんは助けよう」 結城さんの言葉で我に返る。 (今のは、何…?) しかし、須々木さんが先決だ。 「美乃ちゃん、頑張って」 美乃ちゃんが須々木さんに駆け寄る。 須々木さんは美人ではないが可愛いといえる女の子で、長めの髪を後ろで一つにまとめていた。 須々木さんは制服のままだった。 制服のブレザーが今は真っ赤に染まっている。 そして…頭から大量の血を流している。 驚きすぎて、怖すぎて、悲鳴もあがらない。 体が凍りついてしまったかのようだ。 美乃ちゃんはまだわたしよりも冷静で、須々木さんに駆け寄り、ヒーリングの治療をしている。 そう、美乃ちゃんの超能力はヒーリング、怪我を治すものなのだ。 結城さんはもっと冷静で、美乃ちゃんが治療を始めたのを見てから、「先生を読んでくる」と言い残し、講堂を出ていった。 美乃ちゃんも血に染まりかけているのを見て、ようやくわたしも止めていた息を吐き出した。 須々木さんは自殺ではないだろう。 どうみてもあの黒い影がやったようにしか見えない。 なら、わたしがテレパシーで須々木さんの考えていることを伝えるしかない。 わたしは須々木さんの手を握る。 直接触れた方がテレパシーの精度が上がるのだ。 <…本……図書室…影…やられた……> (これは、驚きと恐怖?) <魔法……本…学校…いる……本……> (何だろう、怖れ?…違う。畏怖だ) そして急にテレパシーが伝わらなくなる。 まさか、 「美乃ちゃん、意識がないかも」 「え!?」 泣きそうな顔で美乃ちゃんが振り向く。 須々木さんの体は美乃ちゃんの力で淡い光に包まれている。 <ちゃんとした訓練もしてないのに、実戦なんて> 美乃ちゃんの心の声が伝わってくる。 確かにまだきちんと訓練もしていないわたしたちでは限界がある。 でも、何もできないわけじゃない。 せめて、先生が来るまでに命を繋いでおかなければいけない。
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