言霊通信社

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 焦るカイルが可笑しくて、良平は笑いをかみ殺しながらオフィスの出入り口へと急いで歩いていった。  首から下げていた社員証を出入口にある入退出記録機に翳すと、少し間をおいてピッという音が響いた。  これで、入退出の時間が社員証のチップと社内のデーターに記録されるはずだが、昨日カードの記録が正常かどうか確かめると言って、カイルが全員の分を集めてチェックしたはずなのに、どうも反応が悪い。  良平が社員証を裏にひっくり返して見ようとしたのを遮るように、カイルが社員証を差し出し、入退出記録機が同じように間をおいてピッと音を立てた。自分だけではなかったので、こんなもんだったろうかと腑に落ちないながらも、良平は研究棟の廊下へと一歩踏み出した。  カイルと良平は、高速輸送システムのユニバーサル・カレッジ駅より、2区間先の駅で降りたマンションの隣同士の部屋に住んでいるので、帰る先も同じだ。 いつもなら仕事の話をするカイルが、意図的に仕事以外の話を続けているように感じた良平だが、今はカイルを信用しようと思った。
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