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「僕たちは、とっくの昔に、父性や母性本能を失くしたと言われているけれど、思わず手を伸ばしたくなるこの気持ちは何だろう? カイルはどう感じる?」
良平が、説明のつかない気持ちや、心の中の疼きを持て余して、カイルに問いかけると、カイルは魂を盗られたように、ぼうっと愛歌を見つめたまま返事もしない。
両手両足を動かしていた愛歌がふと動きを止めて、カイルの顔を見ると、まるで手を差し伸べるように、両手を揃えて前に出した。
一同息を飲んで見守る中で、夢遊病者のように、カイルが歩いて愛歌の傍に行くと、愛歌も言霊増幅装置から移動して、カイルの目線へと浮き、片手をカイルの頬に伸ばす。
おおっ!と声が後ろで上がったが、カイルは振り向きもせず、実体のない愛歌の挨拶に応えるように、愛歌の小さな手に頬を預ける素振りをした。
「良平。俺は今、父性愛に目覚めたぞ」
クールなカイルと父性愛があまりにも不似合いで、社員たちから大きな笑い声が漏れた。良平もカイルの傍に行き、愛歌の挨拶を受けたが、ん?と首を傾げる。
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