三 富夫君

1/1
50人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ

三 富夫君

 私の家は小さな一戸建で、通りを挟んで向かいの家は、同学年の富夫君の家です。富夫君と私の母親の間は仲が良かったのですが、私と富夫君との会話は少なかったと思います。  ある夜、母が血相を変えて私の部屋に来て、窓から外を見ました。母は私の部屋から正面に見える富夫君の家を確認した後、部屋のカーテンを力一杯で閉めました。 「美由紀、これからカーテンはちゃんと閉めてね」  母の口調が強かったので、私は驚きました。 「富夫君のお母さんが私に言ったのよ」  母は顔を歪めながら言葉を続けました。 「富夫君がベランダに出て身を乗り出すようにあなたの部屋を覗いていたって」  富夫君の家は立派なので、同じ二階でも富夫君の部屋は、私の部屋より高い位置にありました。富夫君の部屋から私の部屋の中が見えても、私の部屋からはバルコニーの壁が邪魔になって富夫君の部屋の中は見えません。だから、母に指摘されるまで、自分の部屋が覗かれている事を全く想像しませんでした。  母からその話を聞いた時、私は体の芯がしびれたような感覚を受けました。 「着替えとか見られていたのかもしれないわね」  母の言葉が背中に聞こえました。富夫君が見たのは、当然、着替えだけではありません。  だけど、母に指摘をされてカーテンを閉めたのは数日でした。一週間もすると、私はカーテンを閉めず、富夫君の部屋の灯りが付いても、時には全裸になって自慰行為を続けました。富夫君に見られているかもしれないと妄想をすると、これまで以上に興奮しました。  学校で富夫君と出会った際、彼の恥ずかしそうに目を伏せる仕草は、逆に私の想像力を刺激しました。 「あなたは、厭らしい私を知っている。私の裸を見て、どう感じたの」と逆に話しかけたいくらいでした。  しかしながら、この遊びは、再度、母から怒鳴られて終わりました。 「美由紀、カーテンを閉めてって話をしなかった。あなた、何で言う事を聞いてくれないの」  私の部屋を見ているのは富夫君だけとは限りません。富夫君のお母様も見ていたとその時に気づきました。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!