十一 社会人一年目秋

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十一 社会人一年目秋

 恵美さんからの連絡が途絶えました。恵美さんに会えないと寂しく感じました。  そういう夜は、私は何もする気力も無くなり、家の傍のスーパーでお惣菜を買ってきて、部屋で食べます。  梅雨の雨の日、とても寂しくなったので、隆夫君にメッセージを送ると、下着を着けずに食事にでかけました。  隆夫君との食事は安い居酒屋でした。独りぼっちの自分の部屋に帰る事が嫌だったので、ふたりでホテルに行くと、シャワーも浴びずに体を重ねました。私は隆夫君の顔に馬乗りになると、パンティを履いていない露出したアソコを密着させました。  私が下着を着けていない女という事が分かったと思いますが、その点について何も言ってくれませんでした。つまらない奴だと思いました。  満たされない気持ちで、部屋に帰ると、インターネット通販の宅配便の不達通知が郵便受けに入っていました。誰かに裸を見てもらいたい。私は露出の快感を欲していました。私は宅配のセンターに電話をして、夜間配達を指定しました。  お風呂に入った後、私は全裸の上に丈の長いTシャツだけで、宅配便を待ちました。  ピンポンと呼び鈴が押され、思い切って、玄関ドアを開けました。荷物を床に下ろすために屈むと、Tシャツが捲れて、お尻が出ます。 「ここにサインしてください」と言われて、宅急便のおじさんに近寄った時、首元からノーブラの胸が見えそうでした。想像の中で、宅配のおじさんの視線が身体に絡みつきました。おじさんの角度からどう見えているのかと気になって、興奮で体が熱くなりました。    宅配のおじさんに「ありがとうございました」と言われた時、声が出ませんでした。荷物を置いて玄関ドアを閉めた時、大きく深呼吸しました。背後の姿見に映る私の裸の背中を見て、変な噂が立たないか心配になりました。冷静になると、自宅でこういう行為はやるべきでないと考えました。  香織さんとは、恵美さんといっしょに食事をしたのをきっかけに個人的にもお付き合いするようになりました。  香織さんは短気です。一度、携帯電話で自分のスタッフに怒っている声を聞いた時は、怖い人だと感じましたが、私は香織さんに憧れを感じていました。  ジムにはおさむ君と呼ばれている従業員がいました。おさむ君は普段受付にいて、香織さんのお気に入りでした。  香織さんがジムでシャワーを浴びて、待合室に座っていると、必ず、おさむ君が飲み物を持って、香織さんのそばに寄って来ました。  おさむ君は時々私の事を見ていました。だけど、私がおさむ君を見ると、慌てて目を逸らしました。好意をもっているのかと気になりました。  私も次第におさむ君の視線を意識するようになりました。  ある日、岩盤浴の後、待合室で雑誌を読んでいると、おさむ君が私にジュースを持ってきました。おさむ君はその日の勤務を終了したようで、リラックスしていました。他の女性会員に会釈をしながら、おさむ君は私に声をかけました。 「今日はもう、お帰りですか?」  私は特に用事はなかったので、「岩盤浴はお腹が減りますよね。寂しくご飯でも食べようかと」と言って、わざと胸元を開いて、掌をパタパタと振って、暑いという仕草をしました。  だけど、おさむ君は私を気にするでもなく、軽く礼をして、「またのお越しをお待ちしています」と立ち上がりました。  拍子抜けでした。私は急に恵美さんに会いたくなり、ショートメールを送りました。いつものドーナッツ店でメールの返信を待ちましたが、返信メールは来ませんでした。  何か満たされない気分で帰路につきました。駅の傍にある公園に寄りました。  公園の自動販売機で温かいコーヒーを買って、ベンチに腰掛けました。公園には人の姿はありませんが、公園に接してある住宅には灯りが見えました。 静かでした。大きな月を背景に滑り台が見えます。  私はコーヒーを飲み終えると、滑り台に近寄り、見上げました。滑り台の頂上が舞台のようでした。裸を見てもらいたい。  私はコートを脱ぐと地面に置きました。  セータを脱いでも、寒さは感じません。ブーツとスカートとパンストを脱ぐと、素足で冬の地面を踏みしめました。  私は下着姿のまま、鞄を持って、滑り台の梯子を上り、舞台に上がりました。ストリッパーのように、私はポーズをとりながら、ブラジャーを外し、妄想の観客に応えるかのようにパンティを下ろしました。全裸です。なんでこんなバカバカしいことをしているのか、笑いがこみ上げてきました。  私は金属の棒を掴むと、身体を反り返らせ、大きく足を上げました。今度は逆にお尻を後方に突き出しました。アソコが後ろから丸見えでした。観客が拍手をしていました。今度は、床に尻を置くと、あまりの冷たさに凍り付きました。  滑り台の上から見ると、遠く公園の向こうのマンションまで見えました。公園に面した通りを急いで歩く人が見えました。誰も滑り台の上に気の狂った女がいる事に気づきません。私は別世界にいるような気持ちになりました。  その時、静かな公園に響き渡るような音で携帯電話が鳴りました。私は体勢を低くして、鞄の中の携帯を取りました。  目を上げると、公園横の通りに人影が見えました。その人はこちらには来ませんでした。本当に人がいたのか、私の妄想なのか分からなくなりました。  電話は恵美さんからでした。恵美さんがしゃべった事は聞き取れませんでした。私は通りの人影が恵美さんだという妄想で頭が一杯になりました。 「恵美さん、私の恥ずかしい姿を見ているのね、だから電話したのね」  私は通りの人影に手を振りました。 「見てあげるわ、美由紀」  恵美さんは言いました。体が熱くなりました。言葉が出ません。 「美由紀、どうしたの。ちゃんと、脱いでいるの?」  恵美さんはやはり気づいています。 「気づいていたわ、美由紀、あなたは変態よ」  私は全裸のまま滑り台の頂上で、立ち上がると通りの人影に手を振りました。金属の凍るような冷たさを足裏に直に感じました。 「足の裏が痛いです。恵美さん」 「痛いでしょう、それは美由紀が変態だから」 「違います、冷たくて痛いです」  恵美さんの言葉が止りました。私は座り込んで、「お尻が冷たい」と泣きました。 「美由紀、今、どこにいるの?」  恵美さんの言葉で、少し冷静になりました。  私は電話を切ると、コートだけを着て、ブーツを手に持ち裸足でベンチまで歩きました。
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