第二五話 ごま団子は別腹でイイですか?

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第二五話 ごま団子は別腹でイイですか?

 以上が「聖☆妹伝説」の誕生秘話である。そして、未恋川騎士がエロラノベ作家となった経緯であった。  南雲仙太郎は、そのまま美味しそうに回鍋肉を平らげた。濃い味付けの回鍋肉で白いご飯が進むようだ。  下吹越エリカは既に皿うどんを平らげており、追加で頼んでいた「餃子の大将軍」の名物の餃子も一人前いただいていた。少しカロリーオーバーな気がするが今日は特別ということにしよう。 「折角だし、デザートにごま団子でもどう?」  回鍋肉を平らげた南雲仙太郎が再びメニューを開く。  ごま団子は、お餅の中に餡子が入っていて、その周りをゴマで包み、油で揚げられたお菓子だ。エリカも好きだ。しかし、既に皿うどんに加えて、餃子も一人前食べてしまった。これに加えて、ごま団子まで食べるのは、明らかにカロリーオーバーだ。  しばらく、悩んだ末に、エリカは答えた。 「……いただきます」  今日は特別である。  南雲仙太郎はウェイトレスさんを呼ぶと、メニューを見せて、ごま団子を二つ追加注文した。ウェイトレスさんが去ると、南雲仙太郎は、右肘をテーブルにつき、左手でピッチャーから空になったグラスへと水を注いだ。 「で、僕がラノベ作家になった話。分かってくれた?」  水で満ちたグラスを左手で持ち上げると、水に浮かんだ氷がカタリと鳴った。口に付いた脂分を取るように、一口水を含むと、ごくんと飲み込んだ。 「はい……。なんというか、いろいろ超展開というか、飛躍はあるように感じるものの、南雲先生がどうして未恋川騎士としてラノベ作家になられているのか、……などは良く分かりました」  下吹越エリカが両手を膝の上に置きながら真面目に答えると、南雲仙太郎は「それは良かった。助かるよ」と安心した表情を浮かべた。  南雲教授は「ちょっとゴメン」と言うと、ちょっと向こうに行くという意味のジェスチャーを見せて、机においたスマートフォンを手に取って立ち上がった。  何か電話か、お手洗いだろうか。下吹越エリカは「どうぞどうぞ」と右手の平を差し出して、南雲教授に全く気にしない旨を伝えた。南雲教授はスマートフォンをとって、通路の向こうの方へ消えていった。TOILETの標識と青い男のピクトグラムが天井にぶら下がっている方向なので、多分お手洗いなのだろう。  「餃子の大将軍」のテーブル席で一人になった下吹越エリカは左肘をついて、隣のテーブル席の向こう側、窓の外の藤代川を眺めた。  外もすっかり暗くなったが、藤代川の河原には、大学のサークルだろうか、二十人くらいの大学生たちが男女入り交じって輪になって何かをしている姿が見えた。時々、ライトの光が見える。  自分も新入生の時や、二回生のころはあの輪の中にいたんだなと思う。四回生になって、就職活動を経て、ゼミ生として卒業研究も始まり、同じ大学生でも、随分と違う立場になったものだなぁと思う。  あのときは、三年後の自分が、こうやって教授の先生と二人っきりで、こんなお店で夕食を食べることになるなんて思ってもいなかった。さらに、その教授がエロラノベを書いているなんてことは完全な想定外だ。  下吹越エリカは自分のスマートフォンをトートバッグから取り出しロックを解除する。LINEのグループにはいくつかの投稿があったが、自分に向けての重要そうな連絡は無かった。そっと、カレンダーアプリを見る。今日の予定にはTODO欄に「リベンジ」と書いてある。一ヶ月前の教授室訪問の予定、卒業研究の相談のリベンジという意味である。  一人、餃子の大将軍の天井を見上げて、この三時間ほどの出来事を振り返った。ゼミの後に、教授室を訪問してのテーマ相談、そこから先生の学生時代の話などを聞いて、それから、先生がエロラノベを書くようになった経緯も聞いた。それらのことも十分、衝撃的というか、実りある内容だった。  でも、もしかすると、ひいらぎケイコ的センスからすれば、こうやって南雲教授と二人っきりで夕食を一緒しているということこそが、一番インパクトのある事なのかもしれない  一ヶ月前に、先生の部屋を訪れた時も、大きな衝撃を受けたが、あのときは実際に話した時間はそんなに長くなかった。今日は、あの日の、何倍も何倍も先生の話を聞いたし、自分自身でも色々話した気がする。 「お待たせ」  しばらくしてから、南雲仙太郎教授が戻ってきた。南雲が戻ってくるより前にウェイトレスさんによって、テーブルには二人分のごま団子が届けられていた。 「いえいえ。……大丈夫でした?」 「ん? ……あー、うん。全然大丈夫だよ」  やっぱり、トイレだけで無くて、何か電話でもしていたようだ。気にならない訳ではないが、とても詮索できる立場にあるわけじゃないので、エリカはその話題を広げたりはしなかった。  テーブルにつくと、南雲仙太郎は改まったような神妙な表情になり、じっと下吹越エリカを見つめた。 「……なんですか?」  下吹越エリカは、ちょっとビクッと身構えた。南雲は真剣な表情のまま、両手の指を組んで、それを机の上に置き、切り出した。 「あのさ……。教員から学生にお願い事をするっていうのも、なんだか奇妙な気がするんだけど、一つだけお願い事を聞いてくれないかな?」 「……何でしょう?」  もしかしたら、さっきの電話で、緊急事態でも発生したのだろうか。  嫌な予感が下吹越エリカの思考を捉えた。
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