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はじめてのクリスマス(朔耶視点)(2)★
湾岸のホテルに部屋を取るかどうか、和泉はかなり本気で迷っていた様子だったが、結局、彼の自宅まで車を走らせることになった。というのも、このまま一晩抱き潰したとしても到底満足する気がしないから、じっくりゆっくり向き合いたいのだそうだ。
なんというか、この連休の過ごし方が見えてしまったような気がすると朔耶は思った。
ふたりで急かされるように都内の和泉の自宅まで戻り、地下駐車場に車を置いて、自宅の部屋までエレベーターで上がる。
その間、和泉は朔耶が離れる事を許さなかった。朔耶を胸のなかに抱き、首筋に顔を近づけては匂いを嗅ぎ、キスを落とす。彼の体温が息づかいが、間近に感じられて、緊張と興奮のせいか、呼吸がいつもより浅い感じさえする。
エレベーターが最上階を指し示し、扉がスライドする。すぐ目の前は玄関。待ち構えたように和泉が鍵を開け、玄関ドアを開いて、朔耶を中に入れ込む。そのドアがガチャリと締められたとたん、朔耶は和泉に抱きかかえられ、そのまま寝室に直行することになった
秒速で着衣を剥かれ、気付けばいつものベッドに全裸で横たわっていた。その上には、同じく和泉が覆い被さってくる。彼はスーツの上着を脱いだ格好で。自分だけ全裸という事実に羞恥心を煽られる。
「あき……らさんも……脱いで?」
そう懇願すると、和泉は意地悪く朔耶が脱がせてくれと言う。
すでに和泉の指は朔耶の脚の間に延び、その最奥の場所を煽るように刺激を加えてくる。そのたびに、朔耶は言葉にならない喘ぎを漏らしてる。朔耶がそれでも和泉のワイシャツを脱がせるためにボタンに手をかければ、彼の指の腹が、くいっと朔耶のその蕾に入り込んだ。
「は……あん」
身体をびくつかせて、それに耐える。もう和泉の服を脱がせるどころの話ではないのに、和泉は楽しそうに、満足げに朔耶の反応を楽しむ。
「朔耶の香りに煽られるな……」
ネクタイのノットに指を入れ、一気にネクタイを解いて外す。その手つきがあまりに鮮やかかつ素敵で、朔耶は見惚れた。ワイシャツも脱ぎ去り、朔耶が手をかざして、和泉の肌に触れる。その引き締まった腹部を指でなぞり、そして胸へ。和泉の身体がざわめき、総毛立っているのが分かった。
「そんなに煽って……あとで泣いても知らないからな」
挑戦的な視線を向けてくる和泉を、朔耶はやんわりと受け止める。
「暁さんが与えてくれるものなら……なんでもいいよ…」
すると突然、腕を取られ、仰向けにしたまま膝を立たされた。体勢的に尻を突き上げる形になり、脚を開かされ、その場所が和泉の目の前に露わになったのが分かった。
きっと和泉にも丸見えだ。そう考えたら、背筋に電撃が走り、性器に熱が集まった。
「体勢を変えただけなのに、感じてるみたいだな」
和泉の声が、自分のその場所の近くでする。息が肌に当たる。朔耶の視界からは窺えないが、すごく間近で見られているみたいだ。
「……だって」
暁さんが煽るから……と言い訳のような言葉を繋ごうとしたら、その敏感な場所に何かが刺激を加えてきた。
「ぁん……」
驚いて腰が動いて逃げを打つ。しかし、それを許されないように、和泉にがっちり支えられていた。
思わずシーツを握り、目をぎゅっと閉じた。
「んっ……」
入り口を探るように刺激を加える。びちゃびちゃと水音がして、指ではない、温かくて柔らかい何か。
舌だ。
そう察すると溜まらない気分になる。和泉が、その場所に顔を寄せて舐めている。考えただけで、興奮してどうにかなってしまいそうだ。
熱が下半身に集中している。下半身を支える大腿が震えている。そこに和泉が腕を絡ませた。
「朔耶のここは、とろけるようだ」
指を使ってぐるぐりと侵入し、そして舌が這う。
そのたびに、朔耶は啼くしかない。
きっとすごく見られている。何度もそうされて、熱を注がれているのに、彼の目の前にあると思うと、恥ずかしくて恥ずかしくて。でも、気持がいい。一気に朔耶の性器が上に向いた。
「朔耶の香りが、すごい。それだけで気がおかしくなりそうだ」
和泉の吐息が大腿にかかる。腰が揺れる。朔耶の視界から、脚の間で揺れる、硬くなった性器が見えた。
まったく触られていないのに、質量を増して先走りをぽたぽたと垂らし、シーツにシミを作っている。
「あん!」
背筋がしなる。和泉が朔耶の中にぐっと指を入れて、ぐりんと回し、拡張し始めた。前立腺も刺激されて、はち切れそうな性器が、ふるふると震えている。
気がつけば視界が潤んでいて、顔が涙まみれになっていることにようやく気がつく。快感を得すぎて、涙が止まらないのだ。
「最初にまずはイっておけ」
和泉が柔らかくなった朔耶の中をかき回し、前立腺をぐっと押し込んだ。
「あっ……!」
すると、朔耶の性器はいともあっさり白濁を吐き出した。その脱力した身体に、和泉がぐっと入り込んできた。
「あああッ……!!」
敏感になっているところにさらなる刺激が加わり、朔耶は悲鳴を上げた。手のひらで身体の重みを支えることが出来ずに肘をつく。
すると和泉が朔耶の身体を抱き起こし、そのまま座位に持っていく。和泉が朔耶の脚を掴み大きく開脚させた。
「はぁ……あん」
繋がっている部分が一気に深まり、朔耶の身体は飛び跳ねた。気がつけば、身体の一番深い場所に、和泉がいる……。
下から突き上げられるような刺激を絶えず受け、朔耶は訳も分からなくなる。和泉が、朔耶の首筋にいくつもキスを落とし、そして腰に手を回し、さらに性器を手にする。
「いいか、いくぞ」
そんな余裕のなさそうな呟きに朔耶も頷いた。
和泉が下から大きく突き上げ、朔耶を翻弄する。性器は和泉の手によって刺激が与えられ、いつの間にか硬さと太さを取り戻し、ふるふると揺れている。ダイレクトに勃ち上がっている己の性器に、和泉の手が精液にまみれて絡み付いて、淫靡で堪らない光景だ。
「あああ……っ」
前後から快感を与えられ、言葉にならない喘ぎしか出ない。和泉も朔耶の背後で無言で快楽に身を委ねているようで、ときおり鼻から漏れるような快感を伴った吐息が聞こえてきて、それがまた煽られる。
和泉が追い立てる勢いを増してくる。朔耶は身体を支えられなくなり、そのまま再び和泉に乗りかかられ、背後から一気に突き上げられる。
「はあっ……ん」
「んっ……」
和泉の指が朔耶の性器を愛撫してほとばしらせたと当時に、和泉も朔耶の中で果てる。
アルファの長い吐精を、朔耶もうっとりとまどろむように受ける。自分のなかに和泉が吐き出されている精がとても尊く思える。わずかとも漏らしたくなくて、少し締め付けるような仕草をみせると、それが伝わったようで背後の和泉が小さく笑んだ。
「暁さん……」
「ん?」
少し鈍いように反応する和泉。
「愛してる……」
朔耶の告白に和泉は片口にキスを落とす。
「……それは、オレが先に言うべき台詞だ。朔耶、愛してる」
せっかくの三連休だというのに、そのままベッドのなかでまどろみながら最終日を迎えた。やはり、なんとなく想像していた休日の過ごし方のとおりになってしまった。
この日、朔耶はベッドのなかで、和泉から抱き寄せられたまま、驚く話を聞かされた。
「え、マンション?」
和泉が建設中の新築マンションを購入したというのだ。購入しようか迷っているとか、購入しようと思っているとか、そういうレベルではなく、「買った」という事後報告だ。
しかもそれは、かねてから和泉が触れていたアルファ向けのセキュリティがしっかりした最新鋭の設備を備えた高級物件で、立地にも配慮されていた。
メルト製薬東京中央営業所の事務所がある大手町や、本社がある日本橋からの交通アクセスが抜群で、皇居の近くにある誠心医科大学病院へのマイカー通勤も容易い神楽坂の物件だという。すなわち、和泉の部屋に泊まれば通勤時間がこれまでより格段に短くなるし、万が一終電を逃してもタクシーで帰ってこれるような配慮がされている。
正直、朔耶から見ればそんな場所にマンションを、と思うだけで目眩がするレベルであるが、和泉のことだからどのくらいの価格だったのか、など聞いてもきっと教えてくれないだろうと思う。番としてその決断に全く関与できなかったというのはどうなのかと思ったが、そもそも一緒に住んではいないのだから、とやかくいう資格はないと思い至った。
和泉によるとまだ外観も出来ていない状態のため、完成して入居するまでまだまだ時間がかかるという。
「なにも言わなくて申し訳なかったけど、言ったら朔耶に渋られると思ってな」
「どういうこと?」
朔耶が問う。
「そのマンションに引っ越すのはオレだけじゃなくて、朔耶もだってことだ。今のマンションは引き払え」
それは一緒に住むということかと思わず朔耶は確認してしまった。当然という表情を浮かべる和泉に、朔耶は少し考えて、頷いた。
「わかりました。これからも、よろしくお願いします」
そう言うと、安堵したように和泉はこちらこそ、と言った。
自分の我が儘で住居を別にするのはそろそろ潮時だったのかもしれない。番持ちのアルファが抱く、番のオメガへの執着というのはものすごいものがあると聞く。現に朔耶も、和泉が時折見せる独占欲に驚くことがあったりする。それがアルファという性なのだ。
「なんか暁さんって、ときどきそういうアルファリズムを出すよね」
「アルファリズムって?」
それは何だと不思議そうな表情を浮かべる和泉に、朔耶は、ときどきそうやってアルファっぽい部分を見せてくれるのだ、と答えた。
和泉はこれまでほとんど強引に何かを進めたことはなかった。これまでベータと偽って生きてきた彼は、いつも朔耶の意見を聞いて、それをもとに判断をしてくれるのがスタイルなのだが、今回はそのような相談はなく意見を聞くこともなく、一人で決めてきてしまった。そのくらい意志が固かったことなのだろうと思う。
「それにしても、ずいぶんあっさり承諾したな。もっとゴネられると思ったよ」
和泉の決断をあっさりと受け入れることができたのは、菜摘の話を聞いたからだ。自分は、和泉暁の番として堂々としていればよいのだと気がついた。そもそも、そんなことで揺らぐような中途半端な仕事をしているつもりはないのだから。
そう決意を新たにしたとき、朔耶は自分の鞄のなかに収められた大事なものを思い出した。
「そうだ。僕からもあるんです」
鞄から取り出したのは、包装されリボンが付いた手のひらサイズの箱。朔耶が、ベッドから身を起こした和泉に手渡す。
「メリークリスマス」
僕からです、開けてください、と朔耶は勧めた。
和泉が丁寧に包装を剥いていく。その箱から出てきたのは、シルバーカラーのバングルだった。
「これを、オレに?」
和泉の言葉に朔耶は頷く。
「プラチナのバングルです」
視線はおのずと左手の薬指に向く。和泉が作ってくれたぴったりのサイズの結婚指輪。不満などあろうはずがない。だが、朔耶は自分が贈ったものを、和泉にも身に着けて欲しかった。
「貴方に、より多くの幸せを」
このプレゼントは、初めて共に過ごすクリスマスの記念になるようなものをと、朔耶があれこれ考えた結果だった。
自分はオメガとして和泉に守られるだけの存在ではない。時に和泉を守る存在としてありたいという決意だった。
バングルは古代から使われていた装身具でも、魔除けの意味があったという。これから、長い人生を共に生きる和泉を守りたくて、少しでも多くの幸せを届けたくて、そう願って選んだ。
その意味合いが、和泉にも伝わっているのかは朔耶には分からない。特に言う必要はないかもしれない。これは自分の決意に近いのだから。
和泉は、嬉しそうにありがとうと礼を言った。
「嵌めてくれるだろう?」
和泉の言葉に朔耶も頷いて、バングルを手に取って彼の手首に嵌めた。細身の白金の輝きを見て、朔耶も満足だった。
すると、その輝きを眺めていた和泉が小さく笑った。
「朔耶、知ってるか。バングルは、魔除けのお守りという意味の他に、束縛という意味合いも含まれる」
その言葉に、意外にも朔耶の贈り物の意図を正確に読み取っていた事実を悟る。そして、その他の意味合いについても、十分承知していた。
「もちろん。これで、貴方は僕のものであることを、他人にも知らしめたい」
和泉は、不意に朔耶の腕を取り、そのまま抱き倒して、口唇を奪った。
「オレの番は、やはり最高だ……」
和泉はひと言、そう呟いたのだった。
【了】
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ストックが尽きたので、次回で一旦完結です。
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