偽りの終焉★

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偽りの終焉★

 和泉がどのように朔耶を宿泊しているホテルまで連れてきたのか、朦朧としていて記憶には全くなかったが、難しいことではなかったのだろう。  先程、朔耶が送ってきたホテルに戻ってきた和泉は、朔耶をそのままベッドに横たわらせた。  朔耶にはまったく事態を理解することができない。なぜベータの和泉がこの体調の変化を察することができたのか。なぜ、彼が自分をここまで連れてきたのか。  アルファ・オメガ科では想定外に発情期を発症してしまったオメガは、緊急抑制剤を処方してもらえる。もしかして、和泉は発情期を迎えてしまった自分を治療するために、ここまで連れてきてくれたのだろうか……。  そんなことをぼんやりと考えてから、朔耶は戦慄する。  いやいやいやいや。  それはまずい。  そんなことを和泉にされては、明日からどのような顔をして彼に会いに行けばいいというのだ。  いや、もうそんな心配は無用か。和泉にオメガと知られてしまった以上、MRの仕事は外されるに違いない。おそらく彼に会うことはないだろう。  そう思うと、否応なしに胸にこみ上げてくるくるものがある。寂しくて寂しくて心細くて堪らない。  いやだ。もう会えなくなるなんて。  不意に涙がこぼれてきた。  朔耶は諦めずに胸ポケットから違う抑制剤を探し当てる。それを取り出し、身体を捩って、包装フィルムから薬剤を取り出そうとした。  そこに不意に和泉の手が重なる。それを辿ると、スーツのジャケットを脱いだ和泉が、真剣な表情を浮かべていた。 「だめだ。本格的な発情期に突入してからでは効き目が悪い」  そうなのだ。だから、経口ではもう効かない。そんなことを百も承知なのに、悪あがきをしている。その自覚はある。  抑制剤を飲むチャンスを逃して発情期を迎えたオメガの本能を再び薬剤で抑えるには、もっと直接的に、はっきり言えば、直接その部位に薬剤を投与しないと効かないのだ。  ……そのため、メルト製薬が販売している緊急抑制薬の剤型は、注射剤と座剤。  そう認識したとたん、身体が一気に逃げの態勢を取る。 「いや……っ! だいじょうぶです!」  発情期なんて、匂いが漏れないように部屋を締め切って自分を布団です巻きにして、ひたすら慰めていれば治まるのだ。昔からオメガはそうやって発情期を乗り越えてきたのだから、大丈夫。  もう何年もまともに発情していないけど!  逃げを打つ朔耶の上に、和泉がのしかかる。 「大人しくしろ、オレが治めてやるから」  その言葉は朔耶の顔色を蒼白にするに十分だった。 「い……いえ、大丈夫です! 和泉先生にそんなお手間を……!」  発情で濡れ、下着はすでにぐしょぐしょだ。そんな部分を、毎日会っていた和泉に診られるなんて、喩えドクターであったとしても本当に勘弁してほしい! さらにそこに薬を入れられるなんて、なんたる羞恥プレイ。    そんなの、軽く死ねると思う。  慌てる朔耶に、和泉は無理矢理、唇を重ねた。  唇を重ねるなんて、優しいものではない。一気に舌を差し込まれて、蹂躙された。 「んっ……!」  その荒々しさはこれまでに経験がない。正直に告白してしまえば、まともなキスの経験だってないのだ。  朔耶は両腕を和泉に抑えられ、仰向けに和泉に唇を受け入れていた。もうこれは拒否できない……。 「オメガなら、黙って抱かれろ」  その言葉で、鈍い頭もようやく真実に辿り着く。 「もしかして……せんせ……」  そう自覚して、先程からそこはかとなく漂うウッディな…サンダルウッドのような柔らかい香りを自覚した。おそらく、それが和泉が纏う匂い……。  和泉は自分の胸元のネクタイのノット部分に指を入れて、結び目を緩める。 「実はアルファなんだ」  和泉本人がベータだと言っていたのに、なぜアルファなのか。  一度火が点いてしまった身体には、そんなことはもはやどうでもよかった。  すっかり和泉にスーツを剥かれ、恥ずかしいほどに濡れた下着もあっさり取られて、朔耶はベッドの上で何も纏わない状態になっていた。  初めて抱かれるのだ。せめてシャワーを浴びてから……と請うたが、和泉が許してくれなかった。 「もうそんな余裕はない。一度抱いてからだ」  確かにそんな余裕は朔耶にもなかった。早く満たして欲しいと、身体がうずく。彼の香りに煽られて、彼の胸の暖かさ、情熱に触れてしまい、和泉のほとばしりを受け止めなければ、まずは満足できない。  それでも少し躊躇うように視線を漂わせてしまうと、和泉が朔耶を抱き寄せる。 「こんなに匂いが沸き立っているのに、洗い流すのはもったいないだろう?」  オレは、この香りに煽られる。  そう言って再び唇を寄せる。朔耶も口を少し開くと、そこにぐいっと舌を入れ込んできた。 「ん……っ」  朔耶も和泉の背中に腕を回す。  和泉によって仰向けにベッドに横たえられる。そして、そっと、両脚を割り開かれる。思わず、腰が揺れてしまった。  もっと刺激が欲しい。  朔耶は和泉の口腔の奥に舌を伸ばす。それを和泉が受け止めてくれる。そして、その間に彼の指が、朔耶の、これまで誰も触れたことのない場所を探り当てていた。  普段は排泄に使う場所であるが、オメガの身体は発情期になるとその場所をアルファの熱を受け止める場所になる。性的な快感を得ると、そこから濃厚な香りを漂わせる分泌液が出て、アルファ自身を受け止める準備が整う。すべてはアルファの精を受け止めるだけの身体になる。 「あっ……」  指をいきなりぐっと入れられたが、すでにその場所は潤んでいて柔らかだ。和泉の放つフェロモンに当てられて、ぐずぐずになっている。 「ほぐす必要もないな」  嬉しそうに言われたが、恥ずかしい。俯くと、和泉が頬にキスを落とした。 「ふたりで気持ち良くなろうな」  和泉の指が、容赦なく朔耶の中に入り込み、ぐりぐりとかき回す。 「はぁ……ああん」  いつの間にか何本かの指が入っていたようで、中を拡張するように指を広げている。 「中をかき回してるだけだぞ。やらしい身体だな」  そんな言葉も快感を相乗させるスパイスにしかならない。  ふたりの間にある朔耶のそれは、もうはちきれそうなほどにそそり立っている。彼はとぷんと音を立てて朔耶の中から指を抜くと、朔耶の両膝頭を掴んで、少し身体を離す。ひんやりと空気に晒され、朔耶の大切な場所が丸見えになる。  これまで見たことがないような、欲望に濡れる眼をした和泉が視界に入る。 「フェロモン、すごいな」  朔耶の発情期に当てられて、彼もヒートを起こしているのは明確だった。彼は、素早くスラックスの前をくつろげると、彼自身興奮してそそり立つ、性器を取り出す。それがあまりに大きくて、朔耶は息を呑んだ。  逸らせない視線に、和泉が気付く。 「これが、ここに入るんだ」  彼は腰を少し揺らして、性器を、その濡れた場所に触れさせた。  朔耶を言葉にできないような堪らない気分が襲う。 「はや……く」  自分の脚を抱え、開く。その場所を和泉に早く、一刻も早く穿って欲しい。 「可愛いやつだ」  和泉の顔が柔らかく和む。それを見て、朔耶も嬉しくなった。 「いくぞ」 「あ……ああっ」  生まれて初めての挿入は思った以上の痛みはなかったが、衝撃がすごかった。なにより、これまでなかった場所が埋まっていく、和泉のものが自分の中に入ってくる、その満足感が堪らない。 「……少し緩めろ」  和泉が大きくため息をつく。しかし、朔耶にはもうどうにもらなない。これまで受け入れたことのなかった場所が埋まった充足感は、言葉では言い表せない程で、もう、和泉のすべてを搾り取ってしまいそうだ。  和泉が身体を乗り出して、意識が飛びそうなほどに快感に濡れている朔耶の唇に再び唇を重ねる。そのぬくもりが、意識が飛びかけている朔耶の意識を揺り戻す。 「だいじょうぶか」  そんな気遣いに朔耶も小さく頷く。 「やば……気持ちよすぎて……」  こんな感情初めてだ。自分が自分でなくなってしまいそうで……。  思わず和泉を見上げた。 「どうした?」 「こわい……」  それはこれから始まる貪るほどの快楽への畏怖か、そもそも的な発情への恐怖なのか分からないが、未知のものに対する恐れには違いなかった。  いい年をして何を言っているのだと、脳裏の隅でそう思ったりするし、ここまできてそんな事を言い出すなんて、和泉も呆れるかもしれない。彼は、発情を治めるために付き合ってくれているのに。  しかし、和泉が思った以上に優しく穏やかな表情を浮かべている。涙を溜める目元に唇を寄せ、その溢れそうな涙を吸い取る。 「大丈夫だ。オレがいるだろ」  何も考えずに気持ちいいことだけを考えればいい、と大きな手のひらを頬に寄せる。  和泉の白檀のような香りが、沸き立ち、それが朔耶の神経を刺激する。和泉が微かに眉根を寄せた。 「んっ……。そう、それでいい」  いいかいくぞ、と和泉が語りかける。すると、彼の腰の動きが一撃、朔耶の奥を激しく突いた。 「ああっーー!」  どんという衝撃に朔耶は襲われる。堪らない、背骨から脊椎を駆け上がり、脳を突くような快感と衝撃に襲われて、もはや喘ぐことしかできない。  激しくリズミカルな腰使いに、朔耶は翻弄され続ける。なにも考えられない。ただ、この男のスペルマを、絞り尽くして、吸い上げたい。 「ふ……あっん……」  和泉が小さく喘ぐ。その声さえも朔耶にはスパイスだ。音は堪らない。結合部はいやらしい水音が絶え間なく聞こえてくる。腰使いで責めてくる和泉に応えるように、朔耶も腰が揺れて仕方が無い。 「いく……ぞ」  朔耶が大きく身体をのけぞらせ、揺れいていたそのペニスからはき出されると同時に、和泉もまた、朔耶の中に、白濁の濃厚な液体を注ぎ込んだ。  最奥を突かれ、その場所にとろりとしたものが叩きつけられる。そのこれまでに経験したことのない快感に、朔耶は恍惚とした。  アルファである和泉の射精は長い。和泉の白濁が朔耶のその場所に注ぎ込まれてる間、和泉がなんとも言えない、官能的な表情を浮かべていた。  また、それを受ける朔耶も、その場所に和泉のものを注がれ、恍惚とした快感は終わらない。  たっぷり注ぎ込まれたその場所から動かずに、和泉が朔耶に再びキスを落とした。 「……大丈夫か」 「……はい」  まだまだ身体には炎がくすぶっている。それでも、その場所にアルファの精液を受け止めて、わずかながらに正気をとりもどした。  和泉は笑い、朔耶の唇にキスを落とす。 「可愛いな……」  そんな表情を見て朔耶はどきりとする。 「っ……、締め付けるな」 「あ……すみま……」  すると、ふたたび和泉は朔耶の唇を絡め取る。  再び唇を離して、和泉は離れがたさを表すように、小さなキスを再び唇に落とした。 「君を、朔耶、と呼んでいいか?」
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