この感情は未定

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
ザーザーと止む気配の無い鉛色の空を、睡眠授業と化している教室から見上げる。 これを俗に土砂降りと言うんだろうな、と黒板に書かれた文字をノートにカリカリ書いていく。ちなみに前も隣も後ろも今や夢の中。先生も黙認…かと思えば唐突に寝てる人には内緒で課題プリントとか出してくるからお茶目。それを出さないと内申が悪くなるのは明白。どんまい、まぁ起こしてあげないけど。 それより、窓から鉛色をチラ見。 …お願いだから今日は帰る時も降っててくれよ 鉛色の空に切に願う。最近、朝の天気予報では1日雨、なのに朝は降ってないし降るのは昼間だけだし、帰る頃には星が見えている。なんじゃそら、とここ最近肩を落としている。なぜって、 ただおニューの傘を早く差したいだけなんだけどさ。 おニューの傘は控えめなベビーピンクを基調に細かいお花が散りばめられた、まぁ女の子が好きそうな傘。ちょっと高かったけど持ち手の所ももちろんデザインも、そして骨組みも可愛くてバイト代奮発して先月購入した。もう早く雨が降らないかとうずうずしちゃうくらい嬉しくて浮き足立っていた のに! 先月に至っては雨が降らない!やっと今週から降り出したと思ったら登下校時には止むし!ほんともう神様どうにかして?!と最近はてるてる坊主を逆さに吊るしている。効果あんの?これ まぁ良い。今は5時限目。あと10分で終わる。その後1時間頑張れば下校だ。今日は委員会も部活も無い。よし、きっと、雨にぶち当たる…!! カタリとシャーペンを置いて鉛色を見上げた お願いします、雨、止まないでください…… 「やだー雨上がってないじゃん」「誰?夕方には晴れるとか言った奴」 願いはたまに通じるんだ、とちょっと感動。 さっきと変わらぬザーザーの土砂降り。やっった!私はついつい嬉しくてはやくはやく、と雑に上履きからローファーに履き替える 折りたたまれても可愛いおニューの傘を手に取って、いざ!! バッ!!と傘を開いた時に目に入った隣の人。ちらりと見れば何やら話をしているよう。あー、あれか。傘忘れた勢か。確かに夕方晴れるって言ってたもんね。 ご愁傷様、と一歩踏み出した 「どうしよう…」 「こんなんじゃ家帰ってる暇もないだろうな」 「傘持ってくれば良かった…」 「仕方ないだろ。とりあえず、コンビニまで走るぞ」 「3人分買うの?」 「最大でも2本だろうな、高いし。アイツは俺が抱きながら帰ればいいだろ」 「お迎え行く日に限って土砂降り…しかも傘忘れるなんてね」 「気休めでもこれ頭から被っとけ、風邪ひかれたら困る」 「はいはい」 男子のブレザーを頭から被る女子。カバンを盾に雨の元走り出そうとしている2人組。知ってる、この人たち。確か隣のクラスの幼馴染2人だったかな…妹ちゃんがいるんだよね、女子の方。保育園とかだったっけ ………。 ……。 …。 「はい」 「「えっ?」」 ズイ、と2人の目の前に傘を差し出す。半分屋根から出てるからバタバタと雨音がする。ほんと、土砂降り。 2人はきょとんとして私を見ている。そりゃそうだ、話したこと、あんまないもんね。 「お迎え行くのにずぶ濡れだったら流石にドン引きされると思うよ」 「えっ、で、でも」 「ちょっと大きめだし、2人で入れると思う。ほら早く」 「え、えぇ、?」 「ほんとにいいの…?」 「いいよ。私これ置き傘してたやつで今日は折り畳み持ってきてるから。なんなら折り畳みも貸す?」 「そ、そこまでしなくていいよ!…じゃあお言葉に甘えて」 「サンキュ」 「いーえ。早く行ってあげなよ」 「あ、ありがとう!明日必ず返すから!」 「遅くなっても大丈夫だよ」 私の手から傘を取って何度も何度もペコペコしながら歩いていく2人組。私はにこやかに手を振って立ち尽くす。 2人が見えなくなってから力なく振っていた手をだらんと下ろした。 「…あーあ、おニューの傘…」 なーにが置き傘だよ。朝からルンルン持ってきたやつだっつーの。折り畳みなんて持ってないし。遅くなってもいいとか思ってないし。あーあ、おニューの傘だったのに…初めてが私じゃないとか、本当にショック。しょげるわこんなん 周りが傘を開きながら帰る中、私はしゃがみ込んだ。もういいよ早く止めよ雨。こんな時ばっかり降りやがって…やっぱり神様は意地悪だし願いなんて叶えてくれない 重ーいため息をついた時、ボンッ、と後ろから傘を開く重い音がした 「帰らねーの」 「……………見てわかるでしょ」 「おニューの傘は」 「………………見てわかるでしょ」 「馬鹿じゃねーの」 「………………放っておいて」 振り返らなくたって分かる声の主。そりゃそうだよ幼稚園の頃からお向いさんやってんだもん。馬鹿にしてる顔なんて振り返らなくたって目に浮かぶ。腹立つ一発殴りたい 後ろにいた奴は私の横を通り過ぎて雨の中に立った。あーはいはい人を馬鹿にしつつ帰るんですね。そーですかそーですか。イヤミかよ、黒い傘さしやがって。じとぉー、と見てると立ち止まって、振り返る。うっわバレたかな心の声 「帰らねーの?」 「…………はぁ?いや、だからぁ」 「早くしねーと置いて行くけど」 「は?」 素っ頓狂な声が出た。いや待って、それって傘に入れてくれるって言ってんのかな?え?正しい?私の推測正しい? しばらく見つめ合っている。え、ほんと?一緒に帰ってくれるの? だが当の本人は次第に怪訝そうな顔をしてため息をついた 「はい時間切れ。さよーならまた明日」 「わああっ待って待って帰る帰る!帰るから入れて!」 素早く踵を返して片手を上げて去っていこうとする奴に、私は慌てて駆け出した。これを逃すとまじでずぶ濡れ帰宅することになる…!!嫌だ…!! 一瞬雨に当たったが素早く奴の傘の中に入ってその背に追突した。ぐっ、!って声が聞こえたけど知らんぷり。意地汚いことするお前が悪い! 「…最初から素直に来いよ…大型トラックにぶつかられたかと思ったわ」 「それ重いって言ってる?怒るよ?」 「はいはい帰るぞ」 「人の話を聞けよ」 「濡れるからもう少しこっちこい」 「やだかっこいい…けど惚れない」 「惚れられても困るから遠慮しておく」 肩を並べてバタバタとうるさい雨音が鳴る中帰る。 本当にくだらないことしか喋らないけどそれでも楽しいからきっとこれは幼馴染の縁なんだろうなって改めて思った おニューの傘は差せなかったけど、まぁたまにはこんな日もアリかな。なんて、ね
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!