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その次の檻には、大きな水槽が置かれていた。中を見ると、豹のような猛獣の頭と魚のような下半身を持った動物が2頭、すいすいと泳いでいた。
その動物は仲良さそうに並んで水中を行ったり来たりし、時おり猫のような声をあげ、じゃれつくように絡み合った。
「かわいいねぇ」
「うん、そうねぇ…」
母親はなんとなくいたたまれない気持ちになってきて、息子を急かし、次の檻へと移動した。
そこから、二人はいくつかの檻を見た。そのすべてには、やはり知らない動物が入っていた。獣の体に爬虫類と鳥類の頭のついた動物。大きな4本の角があるシカのような動物。白くて長い毛の生えたカエルのような動物。
母親はもうこれは何かのイベントで使う作り物の展示なのだと思うことにして、目の前の光景を息子と楽しむことにした。
「ほら、羊さんみたいだねぇ」
「ほんとうだぁ」
カエルのような動物は白い毛を揺らしながら、大きくジャンプをした。そして、しわがれた老人のような声で、「メェ」と一声鳴いた。
写真でも撮っておこうかしら。母親はスマートフォンを出そうと肩にかけていた鞄に手を伸ばしたが、その鞄がなくなっていることに気づいた。そうだ、茂みに入る前、道の脇にいったん置いたんだった。そのときに、持って行かずにそのままにしてしまったんだわ。
「ごめんね、一回戻らなくっちゃ」
「えー」
母親の呼びかけに、息子は不服そうな顔をした。しかし、母親が「どうしても行かないといけないの」と困ったように言うと、息子も納得したのか「うん」とうなずいた。
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