もう1つの動物園

6/6
前へ
/6ページ
次へ
 そして、二人は来た道を戻り、茂みの中に入っていった。やはり大人の体では進みづらく、母親は手こずったが、不思議と行きよりも外に出るまでに時間はかからなかった。 「あ、お母さんの鞄」  息子は茂みの外に出ると、縁石の脇にある鞄を指さして言った。それはたしかに母親の鞄であった。 「ありがとう。よかったわー」  母親はほっとして鞄を拾い上げた。念のため中身も確認したが、幸いなくなっているものはないようだ。  安心して周りを見回すと、息子はもう別のものに興味が移ったようで、すぐに近くにあったキツネの檻をじっと見つめていた。  やっぱりあの動物たちの写真、撮っておこうかしら…。そう思った母親は、息子を連れ戻し、再び茂みの方へと歩いていった。 「あれ…?」  しかし、そこにあったはずの茂みはなく、ただ休憩用のベンチが並んでいただけだった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加