2.暑

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「 あんな小さなものにビクビクするなんておかしいよね 。虫たちの方が よっぽど怖い思いをしてるのに 」 「本当ですね。 私もそう思います。」 千尋が微笑むと、いつも厳しく鋭い恭介の瞳はふっと柔和になった。 千尋はサッと手を洗い終わり、恭介から渡されたペーパータオルで手を拭くと、その場を後にする。 「失礼しました。」 吉鷹と恭介に 頭を下げ、彼は 部屋を出た。 ーーパタン… 出ていった千尋を確認すると、吉鷹はグイグイと いつもの無愛想な顔をした恭介に顔を寄せた。 「 なんですか? 教授、顔が近いです 」 「ちょっと、何!? 急に連れて来てさ!なんかいい感じじゃん! ははぁーん、さては彼の可愛さが分かってきたな〜〜このこのぉ〜〜」 人差し指をグリグリと恭介の頬に刺しながら 吉鷹は話した。 恭介の眉間にはもちろん皺が深い寄っている。 「 いえ、彼の可愛さについては特に分かったことはありませんが、虫を素手でいけるところは気に入りました。 」 「はい? 虫を素手? 絶対 無理でしょ! それで手を洗いに来たの?」 あからさまに「うげっ!」と言う表情に変わる吉鷹の顔。 その顔を恭介は横目でギロリと見た。 実は恭介、虫全般が好きなのだ。 小さい頃、アリを飼育キッドで育てて巣の研究をしたり、丸まったダンゴムシをひっくり返してはお腹の部分がどうなっているのか観察したり、鈴虫を飼ってみたり、てんとう虫を飼ってみたりと昆虫少年であったのだ。 大きくなるに連れて虫を捕まえたり、飼ったりすることはなくなったが、今でも虫を見ると彼は昔を思い出して懐かしい気持ちになり心が落ち着くのだ。 「ならさ〜やっぱり、彼が運命の人なんじゃないの〜?」 恭介の睨みを気にすることもなく、恭介の頬にめり込んだ人差し指の力を緩めるずに 吉鷹は 話す。 しかし、間髪入れず、 「 いや、それはないです! 」 …と、 “虫” と “運命” は、また別ものだと脳の思考回路を繋げる恭介であった。
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