1.風

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バスタオルに包まれた 赤子が 薄暗くジメッとした 公衆トイレで 小さな声をあげて 泣いている “ だれか だれか たすけて、 ぼくは ここに いる から ” ーーーーーーーー 2月 am7:00 ーー♪♪ アラームの音が、真っ暗な部屋に響く。 その音で、一人の omega が 夢から目を覚ました。 彼は 肩までかかった薄い栗色のウェーブ髪に、色白の肌、彫刻のように整った(めん)は、一瞬で 人を惹きつける程の、美しさがあった。 瞳をゆっくり開ける、 すると頬を伝う涙に 彼は 驚いた。 身体を起こし、手で それを払う。 「なんで 泣いて るんだろう…」 ゴソゴソと温かい寝床から出ようとすると、ベッドに一緒に寝ていた男性から手を取られる。 男性は短髪のツーブロックで、色黒、そして左薬指には指輪があった。 「千尋、もう行くの?」 「はい、契約時間は終わりましたから…」 取られた腕から やんわりと男性の手を離し、ベッドから出ると、あたりに散らばっている服を手に取り 身につける。 彼の頸には黒い革で できたネックガードが巻かれてあるが、その周りには 情交を思わせる鬱血した痕や、歯型が 赤黒く広がっていた。 omegaは、全ての洋服を着終わり、茶色のコートを羽織ると、ベッド で タバコを吸う 男性に向かって声を投げかけた。 「またの ご予約、お待ちしております。」 その言葉に対して 男性は煙を吐き出しながら、omegaをじっと見つめた。 「 また…」 その熱のある視線をかわすように、会釈をして omegaは 部屋を出る。 溜息を放ちながら、玄関を開けて、隙間から外の世界を見た瞬間 彼の瞳孔は一瞬にして縮瞳し、瞼を閉じた。 そこには、彼の涙のように 朝陽が 世界に 降り注ぎ、美しくも 悲しく 、 煌めいていたからだった。
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