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バスタオルに包まれた 赤子が
薄暗くジメッとした 公衆トイレで 小さな声をあげて 泣いている
“ だれか だれか たすけて、
ぼくは ここに いる から ”
ーーーーーーーー
2月 am7:00
ーー♪♪
アラームの音が、真っ暗な部屋に響く。
その音で、一人の omega が 夢から目を覚ました。
彼は 肩までかかった薄い栗色のウェーブ髪に、色白の肌、彫刻のように整った面は、一瞬で 人を惹きつける程の、美しさがあった。
瞳をゆっくり開ける、
すると頬を伝う涙に 彼は 驚いた。
身体を起こし、手で それを払う。
「なんで 泣いて るんだろう…」
ゴソゴソと温かい寝床から出ようとすると、ベッドに一緒に寝ていた男性から手を取られる。
男性は短髪のツーブロックで、色黒、そして左薬指には指輪があった。
「千尋、もう行くの?」
「はい、契約時間は終わりましたから…」
取られた腕から やんわりと男性の手を離し、ベッドから出ると、あたりに散らばっている服を手に取り 身につける。
彼の頸には黒い革で できたネックガードが巻かれてあるが、その周りには 情交を思わせる鬱血した痕や、歯型が 赤黒く広がっていた。
omegaは、全ての洋服を着終わり、茶色のコートを羽織ると、ベッド で タバコを吸う 男性に向かって声を投げかけた。
「またの ご予約、お待ちしております。」
その言葉に対して 男性は煙を吐き出しながら、omegaをじっと見つめた。
「 また…」
その熱のある視線をかわすように、会釈をして omegaは 部屋を出る。
溜息を放ちながら、玄関を開けて、隙間から外の世界を見た瞬間
彼の瞳孔は一瞬にして縮瞳し、瞼を閉じた。
そこには、彼の涙のように
朝陽が 世界に 降り注ぎ、美しくも 悲しく 、
煌めいていたからだった。
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