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一人ベンチに残る 千尋は 追いかけるように飛び回る二匹の小さな蝶を目で追っていた。
それを見つめ目を細めて 微笑んだ。
その瞳は 愛おしそうに、悲しそうに、
上昇気流に乗るようにふわりと高く空に 舞い上がった一匹。
千尋には日差しが邪魔をして、蝶がどこにいるのか目で追えなかった。
しかし、もう一匹も引き寄せられるように空へと飛んでいった。
その子たちに 彼は 言葉を告げる。
「 どうか、しあ わせに… 」
そして、ベンチを後にした。
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月日は流れて、酷暑へと季節は変わり
二人が話していた あのベンチには誰も座る人はいない。
次の日から、毎日恭介の元へと訪れていた千尋の姿は見られなくなった。
理由は至極当然なこと。
彼は退院したのだ。
心臓の病であるため、1週間に一回のリハビリと検診が必要であるが、 彼が病院へと姿を表すことは無かった。
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