3.湿

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一人ベンチに残る 千尋は 追いかけるように飛び回る二匹の小さな蝶を目で追っていた。 それを見つめ目を細めて 微笑んだ。 その瞳は 愛おしそうに、悲しそうに、 上昇気流に乗るようにふわりと高く空に 舞い上がった一匹。 千尋には日差しが邪魔をして、蝶がどこにいるのか目で追えなかった。 しかし、もう一匹も引き寄せられるように空へと飛んでいった。 その子たちに 彼は 言葉を告げる。 「 どうか、しあ わせに… 」 そして、ベンチを後にした。 ーーーーーーーーーーーー 月日は流れて、酷暑へと季節は変わり 二人が話していた あのベンチには誰も座る人はいない。 次の日から、毎日恭介の元へと訪れていた千尋の姿は見られなくなった。 理由は至極当然なこと。 彼は退院したのだ。 心臓の病であるため、1週間に一回のリハビリと検診が必要であるが、 彼が病院へと姿を表すことは無かった。
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