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慎也のその言葉に、流石の恭介も箸を止め 隣の者をまじまじと見つめた。
「 身を 売る ? 」
「ーー男娼でしょうねぇ。 omegaで、しかもあの美しさ。需要は多いでしょう。
客であろう男性とホテルへ入って行くところを拝見いたしました。」
「 はぁ? アイツ、二十歳にもなってないガキだぞ? 」
恭介は眉間に深い皺を刻み、慎也に箸を向けた。
彼の胸で、言い知れない何かが蠢き、心臓がキュッと痛くなった。
( 何やってるんだ、アイツは! )
彼の握っている箸は震えていた。
「ーー私に、突っかかられましてもねぇ。 いろいろ事情があるんでしょう。 彼のこと 気になります?」
「 気になるも何も、ガキがやって良い仕事じゃないだろう! 」
「ーーえぇ、そうです。」
慎也は胸ポケットを探り手帳を出すと、手帳の一枚の紙をピリッと破った。
「ーーはい、どうぞ。」
「 ん? これは? 」
「ーー当家の使用人に、佐々木千尋が働いている仕事を調べさせました。私の考えは残念ながら間違えではありませんでした。
それで使用人に、そこの予約を入れさせました。
彼と会うことになっている日時とその場所です。」
「 俺が、それに 行けってことか? 」
「ーーえぇ、貴方が行った方が、彼にとって良いお灸になると思いますから。」
恭介は紙を見つめながら、千尋の姿を思い出していた。
妙に大人びた言葉遣いに、
瞳には哀の影が見える笑顔。
彼と会えば、その理由に、
彼の心を 深く穿つことになる気がした。
赤の他人の千尋に、そこまでするべきなのか恭介は躊躇うのであった。
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