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狐顔の男は、森慎也と言う。
彼らは 同大学の医学部時代の同級生であり、現在研修医として、多くの “科” を周り、自分の進むべき専門の道を決定しなければならない。
alpha である2人は、特に問題なく複数の科を周り、そろそろ研修も終わりへと近づいてきていた。
恭介には、己の人生に 重要な場面 など、今まではなかったと思い出していた。
そう、全て 安斎という“血”が敷いたレールを確実に歩けば良かったからだ。
準備を充分に行い、全ての場面を処理してきた。
偶発的、突発… して起こる重要なものなど彼にはなかった。
「 お前はもう決まっているのか? 」
「ーー当然です。 教えませんがねぇ…」
慎也はそう言いながら、細い目を開き、もう一つある先のホームに向かう。
彼の視線の先には、ホワホワの栗色の髪を肩まで伸ばした人が 歩いていた。
その人の歩き方に力はなく、胸元のシャツを掴み 真っ白な顔色で苦しそうな表情を浮かべ、ベンチに腰をかけた。
慎也の視線の方向が気になった、恭介もその人を見つめた。
「ーーあの人 大丈夫でしょうか?」
慎也は危機感のある表情で見つめそう言った瞬間、2人が乗る電車が到着した。
突風が吹き、彼等の髪を流して行く。
『ピピー!』と電子音がして電車の扉が開いた。
『 2番線から間も無く発車 致します 』
「ーー!!」
「 !! 」
アナウンスが流れるが、2人は電車には乗らなかった。
お互いに 踵を返し、急ぎ 走り出す。
何故ならば、ベンチに座っていた人が 電車越しに ベンチから崩れ落ちたのが見えたからであった。
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