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時は流れ 春
新緑が芽を出し、生命が溢れる季節だ。
恭介と慎也は 進むべきそれぞれの道へと進んでいた。
慎也は病理医として、恭介は脳神経外科医なることを決め同じ病院であるが、それぞれ違う道へと進んでいた。
病院の食堂で偶然に会い、話すことは月一程度であり、今日はその偶然の日であった。
慎也は、恭介を見つけると許可を得ることもなく、彼の隣に腰をかけた。
「ーーお元気ですか?」
慎也はトレイにあるフォークに手を伸ばしながら恭介に問いかけた。
それに対し恭介は横目で慎也をチラリと睨みながら答える。
「 お前にはこれが、元気にそう見えるのか? 」
「ーー失礼。
だいぶ草臥れた人に言うべき言葉ではなかったですね。」
恭介の顔色は艶がなく土気色をし、目の下のクマがひどい。また白衣には皺がより覇気がないように感じる。
恭介が進んだ脳神経外科の道。
現代の高齢化社会を鑑み進んだ先ではあったが、脳神経外科の手術となれば10時間を超えることはざらではなく、連日連夜の手術の補助により疲労は蓄積され、本日の恭介が出来上がっていた。
恭介は、涼しげな表情でサンドイッチとサラダを食べる慎也を見つめ「 病理医は定時に帰れていいな 」と悪態を吐こうとしたが、出かけたところでその言葉を止めた。
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