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第一話 神父とバーニングチップ
みんなブレインインターフェース、BMIを使いたいらしいな。
脳に埋め込むICか。ICには導体が必須だ。電極は金属を使うだろう。
その金属はIHヒーターに弱いだろう。調理で使うあれだよ。
IHコイルの中に金属棒を差し込めば棒は赤熱して熔ける。
これはチップも同じだ。
ICを入れてる輩に背後から襲い掛かり、IH帽子をかけてやろう。
もし真人間なら無事だ。
もしICを使う人間はどうなる。有罪だ。脳は焼ける。
なあに、少し障害が出るくらいだ。
―
ニューヨークにはナノマシンを使ったBMIが普及した。ナノマシンといっても微細なICチップのようなものだ。
しかしそのBMIはその人を便利にして、助けるためにあるのではない。
脳によってつながったその精神を追い回し、馬車馬のように働かせ、記憶をハックして資産を盗み取り介護施設の頼りになるまえに暗殺する首輪として使うのだ。
聖書に書かれたことよりもおぞましく、神と人間の心としての平等を踏みにじるもの。冒涜的なデバイスなのだ。
それを使いたいと願い手術したときから一種のカルト教に入信したようなものなのだ。
そんな現代において、ある古典宗教から生まれた急進的組織、心十字が人々をブレインマシンインターフェースから解放するために、IH帽子による人々の救済を行っている。
帽子をつけると脳内のナノマシンを焼ききって停止できるのさ。ゴミ掃除デバイスな。
ああそこで〇〇〇〇〇〇オンラインみたいなゲームをしてるパンピー少年がいるね。お、バーチャルの美少女に鼻の下を伸ばしているぞ。うんうん。少年の時はゲームを楽しめるんだ。うんうん。しかしね、例えばゲーム内の行動は大人になった時の就職適性の調査で使われてるんだよね。ビッグデータは際限なく活用されているわけだ。
活用している企業が必ずしも社会的とは限らない。
反道徳的な、イビルな企業がもしれない。
従業員の中に反道徳的なものが混ざっているかもしれない。
おや、この子の適正判定はだいぶ低い様だ。というか、このままだと豚箱行きかね。なるほど。わが協会の救うべき小羊と判断する。
作戦を開始しよう。
その神父はゲームで無防備になっている少年に帽子をかける。
=====
「離してくれよ!」
頭のチップを焼き切ったせいで少年は小1時間眠っていたが、夢のようなゲームから覚めたようだ。
「PKしすぎじゃないか君。その獣のような闘争心は素晴らしいけどね。大人が飼いならすには獰猛な子だね。」
「マスター。ガラの悪い連中が来ていますので、その子背負っていきますね」
さきほど頭を焼かれた少年はビル。タダの高校生だ。
マスターと呼ばれた神父のような大柄の中年はイグという。
マスターといったアンドロイドはコイルという。外見は多脚に胴体と顔面にディスプレイがついているだけだ。だがそのディスプレイには女の子のキャラクターが表示されている。
彼らは心十字に所属している。
コイルがデジタルワールドにダイブし、AIアバターとしてインターネット上を調査している。
イグ「コイル任せたぞ。」
ビル「うわ、なんだこのアンドロイド やめry」
コイル「痛くしないから言うこと聞いて」
ビル「この声、さっき僕に話しかけてきた美少女プレイヤーじゃないか? AIだったの?」
コイル「そのとーり。ささ私に抱っこさせて。ね?」
しゅんとしたビルは子犬のように静かになりコイルに運ばれていく。
イグはガラの悪いやつをかたずけて、目くらましの煙幕をまいて追いつく。
彼らはマンホールの入りこみ、地下を行き来する。
―
ここは心十字。心十字協会。
この世界でかつてあった紅十字協会はその心を売り渡し、便利だという理由でおぞましき侵襲式ナノマシンICによるブレインマシンインターフェースに手を染めた。レッドドラゴンとは紅十字のことと揶揄されている。彼らの手術をした人が正規の人、手術をしていない人が非正規の人と区別され、その差別心を利用して、心の自由を守る非正規の人に心の自由を捨てさせられた正規の人になるように促すのだ。
あれだな、聖書で知恵の実の話があるね。今我々は知恵の実を無くすためにブレインマシンインターフェースを入れられているといえる。そのデバイスは人々の数だけ知性を作るのではない。むしろ人々を一つの機械として知識を統合しようとしているのだ。うすら寒い話だ。
統合したらどうなるのだ。紅十字協会は聖書のためといっているが、その実態はカルトであって、神の否定が目的である。統合された人類に聖書を捨てさせることもできるだろう。自由な意思などないからね。
ああ、メタ世界に置かれては、似た名前の組織にはBMI開発を禁止するように動いてほしいものだ。
さて、それに対し、人の心の自由さを重視する教団が手を取り合って生み出した結社が心十字である。
ブレインマシンインターフェースで動く人類に対抗するためAIと共存して動いている。
彼らの話は続く。
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