第三話 反道徳勢力(アンチモラル)

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第三話 反道徳勢力(アンチモラル)

どくろが多く重なっている。 ここはある火葬場。介護施設の隣にある。 森の茂る墓地の近くにある。 イグは火葬場の近くを通りながら物思いにふける。 長いこと考えこむ。 ++++ この物語において介護施設はある年齢になると安楽死される施設である。 安楽死の判断基準は曖昧で、紅十字の判断した活かすべきと判断する人のみ生かして、紅十字が見限ったものは抹殺される。 紅十字こそが社会であって、紅十字に逆らうものは反社勢力であった。 今日も誕生日を迎え、寿命と認定された老人たちが永眠していく。 戸籍データには不自然な誕生日と命日が連なっている。 明らかに自然死ではない、ゆりかごに包まれた日付と死亡した日付が並んで記述された老人たちの名前が続く。まあ、指で合図するように100人単位で虐殺されるほうが不自然か。やろうと思えば、直ちに、州単位、国単位で虐殺できる。間違った技術の進歩と権力の介入がそんな状態を作ってしまっているのだ。 免罪符、お金を紅十字に払えば、死後に精神のアップロードを行って永遠の寿命を与えるといい、実際はデータベース容量の制限から免罪符の額面の少ない順から消去されていく。もちろん、このシステムでは審判の日の後、復活することはできない。 物価の上昇、インフレーションで100年もすれば100年前の老人の免罪符など紙屑のようになる。免罪符といっているが、それは天国への不動産投資証券ではなくてただのジャンク債券である。もちろんその事実はみんな知らない。ありがたがってジャンク債に群がる。知識の継承などさせないから、警鐘を鳴らすものはいない。仕手株のような債券に群がるキリギリスしかいない。そうやって紅十字は債券を売って資金調達をする。あるいは免罪符を買わせることでローンを組ませ、紅十字側に組み込む。 老人の中にはイグのようにサイボーグになるものもいる。しかしなかなかお金がかかるので100歳を超えて働いて、返済するものもいる。 過去をよく知る長寿の老人は、人類の統合を目指し人類の知を奪おうとする 紅十字にとってはうるさいハエだ。ブレインマシンインターフェースの闇に気づいているものは脳のチップを焼き切って地下や深山幽谷に閉じこもっている。まるで仏教の修行僧のようだ。 この時代のインターネットは人に知をもたらし、つながり合うものではなく、人の知を奪い、機械の書き上げた運命に縛り付けるものだ。人の生きたことを抹消するものだ。 紅十字の判断基準は不明である。 しかし、現在わかっている噂では、例えば大統領を輩出した血筋は断絶させたり、起業家の血筋を断絶させたり。…世の中に出てくるもの、出る杭を必ず打つ傾向があるのだろう。 気づけばアメリカ合衆国は紅十字の本部以外は何もないと揶揄される。 かつて世界を席巻した企業群、大学群、すべてない。 もうアメリカ人は挑戦しないし、挑戦したら抹殺される。ディストピアだがディストピアと気づかせないようにインターネットがあるようだ。 世の人々は会社に出勤している。一部の人は体は紅十字の自動操縦機構にゆだねて職務放棄している。まじめな、あるいは仕事に新しさや発見、つながり、やりがいを見つけて働いている人ももちろんいる。 この火葬場や介護施設に出勤しているものも、肉体だけは自動操縦で心は仮想世界にこもっているものが多い。 認知症、精神病の類もナノマシンの脳内投与で ” 治療 ” する。 動ける肉体を持っていればナノマシンを入れて動けるようにする。動けない人はサイボーグ手術されるか、紅十字に見捨てられるかしてしまう。 この社会はサイコパスであった。その言葉がふさわしい。 道徳など全くない、反道徳社会。 介護施設ではあるが、介護する人はほとんどいない。 介護というのは何を介護するのだろう。死ぬことを介護するのだろうか。 邪悪な気配が施設から漂う。 ++++ イグはそんな施設を憎らしく見ながら、過ぎ去る。 アメリカ合衆国はEVIL、悪になってしまった。 いつか再びアメリカを取り戻さなければいけないのだと。
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