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第六話 ゆりかごとインジェクター
「おい。酒を持ってこい。奪ってでもだ。わかってるな?」
自称廃品回収業のギャングは少年を顎で使う。
少年は夜になると地下街を徘徊する。生きるためにだ。
しかし地下街も物に飢えているから、地上に出ていかないといけない。
今日は地上に出なければいけないか。そう思ってゴミ回収のパイプラインを伝って、地上のごみ箱から顔を出す。
ゴミ箱をでて、裏路地を行く。
ふと産気づいた妊婦が夫と共に産院に駆け込んでいる。
産院、病院、消毒用のアルコール。少年はギャングに収める品物のアイデアが浮かんだ。病院であればアルコールがあったりする。ほとんどメタノールだろうが、エタノールもあるかもしれない。むしろあのアル中にメタノールを飲ませれば開放してもらえるか?。
そう考え、そろりと、病院の中に侵入する。急患用の登用口は警備がザルだった。警備用の4足歩行ロボットがいるが、少年にはなにもしない。
どうやらこの少年は脳内チップが使えるのだろう。一般市民のアカウントを持っているようで、信用スコアもそれなりにあって、長らく行方不明扱いの少年を警備ロボットは攻撃できない。だが行方不明人を見つけたという連絡をしているようだ。
少年はそれも織り込んで手早く病院内を調べて逃げ帰ろうと模索する。
先ほどの夫婦の子供が生まれたのか、産声が聞こえる。
産声を頼りに進むと分娩室がある。部屋の入り口には消毒用のアルコールがある。よしこれを持っていけばやり過ごせるだろう。
そう思って座り込んで、アルコールの入った消毒瓶持ち上げようとする。
ふと分娩室の奥が見える。
赤子がなにか処置を受けている。赤子にバーコードの入れ墨を入れ、頭にインジェクターを挿し、ナノマシンを入れる。処置された赤子はゆりかごに戻され親の元に帰る。これがニューヨークの産院の光景なのか。
僕も生まれたときにこんな風に処置されたんだろうなと少年は思いつつ病院を後にする。
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子供は物心ついた時からネットワークと共にある。
ブレインマシンインターフェースネイティブな子供しかいない。
パソコンがスマートフォンになり、スマートフォンはさらに小さくなって人類を縛る憎きチップになって脳内に集積される。
脳内チップを製造する会社の株価はうなぎのぼりに上がり、かつてIT企業が、あるいはSNS企業がいつの間にか社会インフラになったのと同じように脳内チップ企業は当然のごとく社会インフラに組み込まれた。
いつ生まれたかは定かでないが、紅十字は秘密結社のように存在し、脳内チップのハードウェアとソフトウェアの両方、さらにはネットワーク上に複数のバックドアを仕掛け、国民一人一人を監視し、内心の自由を侵すことができるようになった。脳内に警察を雇用しているわけで、リアルの警官はほとんどいなくなってしまった。脳内チップに任せれば誰でも警察官のように反社会的なものを取り締まることができるのだ。
いまでは複数の国に脳内チップが輸出されている。極東や欧米にも導入が進んでいる。とくに半導体をお家芸としている国家に対する浸食が著しい。
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