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第七話 検索するな
” 調べるな。
” 動こうとするな。
” 心を閉ざせ。何も創造するな。挑戦するな。
” すべては紅十字が掌握する。
” 検索するな。それを調べれば、明日はない。
クリスは仲間と検索してしまった。
決して思いついてはいけないことに気がついて検索してしまった。
仲間は責任を問われ脳内チップに殺され、突然に亡くなってしまった。
富豪の子供のクリスはなんとか一命をとりとめた。それが彼の信用スコアによるものだったのだろうが、少年の心を傷つけた。
だからクリスは地下に逃げた。地上では自分なりに生きられないことに気づいたから。仲間の死を無駄にしたくないから。
しかし現実は甘くなく、アル中のオヤジに使われている。
地下街の片隅で、手に収めた消毒用メタノールを眺める。これをアル中に飲ませよう。あのアル中なら混ぜ物が酒に入っていてもわかるまい。クリスは隠し持っていたワインや、ジン、ウォッカとメタノール入りの消毒用アルコールを混ぜ込んで、少し色のついた毒酒を作る。
「おや、また会ったね。」
この声は地下街のシルクハットの客か。クリスは平然を装って振り返る。
「ほほう、良さそうなお酒だね。これの代わりに一杯飲ませてくれないか。」
シルクハットの紳士はお金を差し出す。
まずい。この酒はアル中専用だ。奴を倒すための武器だ。
目の前にいる善人のシルクハットおじさんに飲ませるわけには行けない。
「これは売り物じゃないんです。帰ってください。おじさん。」
少年はシルクハットの紳士に即答する。
「んー。僕は実はアル中でね。その、それ、ほしいなぁ。」
「やめてくださいよ!」
善人に見えたがこのおじさんもダメな人か。少年は絡んでくるシルクハット変人から毒酒ボトルを抱え込もうとする。
しかし人外の力、機械のような腕の力でボトルは引きはがされる。
「この臭い。エタノールの臭いじゃないな。こうゆうお酒は嫌いなんだ。」「少年。なんでこんなものを作っていたのか聞かせてもらおう。」
そうしてシルクハットにクリスは拉致された。
++++++++++
なんでメタノールがわかったのか。
少年は腕をつかまれながら俯いて進む。連行される。
全く抵抗できないおかしな力、腕からはモーターやシリンダの動く機械音が聞こえる。
サイボーグ。
そうかこのシルクハットはサイボーグなのか。
「私はイグといってな。わかっているだろうがサイボーグだ。」
クリスが機械の腕だと悟ったのを見透かすようにイグは答える。
「放置できないな。きみのワインボトルからエタノールに加えて別のアルコールのにおいが出ていたからな。」
サイボーグに内蔵された、超小型クロマトグラフィーセンサーやら分子センサやらが感じ取ったのだろう。
犬ほどにはよくないが、機械として臭い物質を数値化して感じ取れるがゆえに、イグは少年の怪しさを感じ取れた。
実は毒性ありのメタノールよりも毒性の少ないイソプロピルアルコールらしき臭いのほうが強かったのだが、そんなものを食品に故意に混ぜるというのは冗談が過ぎる。消毒用のアルコールを食品に混ぜようとしていたのだ。普通の少年がそんなことはしない。シルクハットおじさんは追及をやめない。
「そのあやしいワインを誰に盛るつもりかな? いやぁ、毒を盛るのは、ギルティな行為だね。おじさんはお勧めしないな。」
「まあ、私のアジトに来てもらおうか。」
おじさんは帽子をとって少年にかぶせる。クリスは抵抗しようとするが、視野にあるはずの脳内ウィンドウはぼやけ、気絶するかのように倒れる。
「チップ入りだったか。頭の中のチップは入念に焼いておかないとな。」
おじさんの声が響き、優しく頭にシルクハットを押し当てられていた感覚が残り、そのあとは全く記憶がない。気づいた時には、四つ足ロボットに乗せられて地下教会の前にいた。
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