第五話 ガラの悪いやつら

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第五話 ガラの悪いやつら

ガラの悪いやつらも食わねばならない。 彼らの資金源は禁止されたものであったりする。 禁止された中毒性の高いもの、たばこと酒。 地上では脳内チップにアルコールやたばこが影響するなどといって禁酒禁煙法が制定されている。脳内チップは薬剤に弱いのだ。読み取られる脳が正常でないとうまく読み取れない。酒やたばこに溺れる薬剤中毒者は地下に押しやられる。 ああ、コーラという飲み物も規制されているんだ。カフェイン入りがダメらしい。コーヒーにお茶もNGだ。下水道や地下道のネットワークを介して、港から仕入れたタバコの葉っぱを降ろし、紙巻きタバコや電子タバコリキッドに調整するものもいる。 イグは電子タバコのようなものをくわえながら、紙に書かれた暗号を復号化してメッセージを見ている。要約すると心教会から納品された聖餐用のワインが届いていないから何とかしろとのことだ。 コイルと共に下水道を行く。 ところどころにひび割れがあり、その先には小さな地下街がある。 途中で蚤の市、フリマのような市場がある。地上の市民のように脳内でフリマアプリなど使えない。脳内フリマアプリは不正出品などない。 それに対して、昔ながらのフリマだからこそ掘り出し物もある。 「イグ、あれ、うちのワインのボトル。」 コイルが見つけたのは空のボトルだ。心十字謹製のボトルだから一目でわかる。 「おにいさん、かってよぉ」 子供、少年がこちらをみている。 仕方ない。払ってやるが、対価が欲しい。 イグはボトルと引き換えに代用貨幣のタルを支払う。ドルじゃない。タルだ。ドルは地上の通貨だがタルは地下通貨だ。素材は銅や鉛でできている。弾丸の素材でもある。 少年の背後にはガラの悪い男がいる。いわゆるギャングだ。肌にはタトゥー、薄手の服にピアス。拳銃を分解して整備しているようだな。 この子に払った代金も奴の私腹を肥やすことに使われるだろうが、仕方ない。 少年は嬉しそうに代金を受け取る。 俺はコミックのヒーローじゃない。俺はどちらかといえばガラの悪いダークヒーローだ。すべての人を助けることはできない。俺にできることは何か。 地上にいる人々の脳内のチップを焼き払う。それだけだ。 「ところで少年、このボトルはどこから仕入れたのかね?」 マスターに聞いてほしい。と少年は答える。しかし声は大きくない。 「マスター、このボトルはどこから仕入れたのかい?。」 「お客さん、そりゃ私の経営している廃品回収業で出た余りでして、詳しくはちょっと。」 ほう、そこが出どころかな?この男を泳がせれば見えてきそうだな。 「ああ、失礼。きれいなボトルだったのでどこから仕入れたのか気になったもので。今後いいものがあれば見させていただきたいですな。HAHAHA」 そう答えて、会釈をして、俺たちは店から離れる。 忘れずに、コイルに店主の顔をカメラに収めさせておく。 「コイル。その顔はデータベースにあるか?」 「んー、ないね。」 「地下街に入ったばかりの新入りか?」 「そだね。」 そいつは紅十字の差し金か。わざと我々のワインボトルを奪って見せて俺をあの場所に呼び込んだか。 いや考えすぎだろうか。しかし新入りの住人ならば考えすぎも損ではなかろう。紅十字は最も恐れるべき敵なのだ。 警戒しつつ知り合いの酒場に入って情報を集める。 酒場は皆、心十字の息のかかったものたちだ。 規格外の安い粗ワインを愛好している。 酔った客が多いから、その話が真実かどうかわからないが、何もないよりはマシである。情報を仕入れるために、新入りのガラの悪いヤツの写真をコイルに表示させて酒場を歩いて回る。 証言1 「ああ、そいつは地上で隠れて酒を飲んで、紅十字の検閲に引っかかって追い出されたらしいぞ。」 証言2 「そいつは紅十字かって? いや違うだろう。やつはアルコール中毒者だ。脳内チップを隠して入れていたとしてもまともに機能しないだろう。」 証言3 「紅十字かどうか考える前にアル中のあいつが銃を持っていることのほうが恐怖だ。」 証言4 「ゴミあさりしているのを見たことがあるかな。奴が来てからはごみが少なくなった気がするわ。」 証言5 「少年をこき使っているのは許せないよね。いや、俺じゃどうにもできないんだけどさ。」 ふむふむ。じゃあ、奴はワイン欲しさに盗んだうえにその空ボトルをフリマで売りさばいただけか。シンプルな話だったのか。 少年はなぜ使われているのか。 コイルに少年の顔を映してコイルが見たことのある人物データベースと照合する。だが子供の顔の成長は速いものだ。何人か候補が出てくるが決定打に欠けている。まあいい、ビルと同じく、助けるべき羊かもしれない。 ビルたちは教会に帰り次の機会を狙う。 少年を救出し、ガラの悪いヤツを捕まえるために。
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