1.鳴り出す私の音

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「私にできるのかな……」 そういうわけで高校生活始まって最初の部活見学が終わりを告げた。 「部長……ズルいほど誘うのがうまいなぁ」 私は夕暮れ染まる帰り道を進もうとしていた。 戸松部長の誘導に乗せられたことによる勢いで「やります」と一言言ってしまったことに少し後悔をしていた。 でも戸松部長のあの誘いと差し伸べた手がなかったら、今ごろは入るのか入らないのかで悩んでいることとなると考えると複雑な気持ちだ。 「あっ!おーーーい」 「ん?」 写真にしても絵にしても綺麗に出来そうな茜染まる空を見上げながら学校の門を跨いだ時、私を呼ぶ声が聞こえたのだった。 「柚梨~~酷いよぉ。私を置いて帰ろうとするなんて」 「えぇ……だって華蓮、部活見学私と違うところだったからまだやってるのかなーと思って」 「なら様子見くらい来てもいいじゃーーん!」 「私、華蓮が何処の見学してたか知らないし……」 「あっ!言ってなかったっけ………」 華蓮は昔からこんな感じだ。いつまで経っても変わらないからいいんだか、悪いんだか。 でもこう見えて勉強面でも運動面でも、総合して私よりスペックが高いことは確かである。 「ちなみに何処行ってたの?」 「おぉ~~、聞きたい?」 「じゃあ、聞かない」 「えぇ~~、そこは聞こうよ!柚梨~~待ってってばぁ」 こういうところも前から。前は付き合うこともあったり……なかったりで、高校生なって心がちょっと大人になったせいかそういうのに乗る気はほとんどなくなったしまった。 そんな華蓮を置いて行くように歩みを早める。これが最近の流れ。 「はいはい、聞くから。何処行ったの?」 「弓道部っ!」 「ふっ…………似合わないね」 スペックが高いのでそういう所に行くというのは想像していたが、まさかこんな性格で弓道部というのは想像しただけで吹いてしまった。 だが、その天罰は直ぐに下された。 「じゃあ、柚梨はどこ行ったの?」 「わっ……私は……け………んぶ」 「ん??」 軽音部に入るというのを一番知られたくない人物に部活についての話をしているということに今更気づく。 私も完全に人の事を言えない立場だと思い知らされた。 「軽……音部」 「えっ!?…………ぷっ!柚梨が軽音部!?」 言ってしまった。そんな早くバレてしまうのは完全に想定外。 「そ…………うだよ?」 「うん、これは悪い夢かな」 「夢じゃないよ!夢だとしてもせめて良い夢にして!?」 「私も弓道だし、人の事言えないから……お互い様かな」 そんな会話をしていたらいつの間にかそれぞれ家へと帰り、いつの間にか夕暮れ染まる空は何処かへ消えていた…………。
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