1.鳴り出す私の音

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「ど……どうも」 「今日は君だけかな」 「えっ??」 部活見学の2日目。 私は特に放課後の用事はないのでまた軽音部に行くのだ。 すると、今日は昨日来ていた4人は用事があるのかそれとも他の部活の見学をしているのか私にはわからないが来ておらず私だけということになってしまった。 「さて、とりあえず名前を聞いてもいいかな?」 「はっ、はい。柳瀬柚梨です」 「柚梨ちゃん。改めて私は軽音部部長の戸松日菜華」 「あっ、私は軽音部副部長の松下(まつした)いのり~~よろしく」 部長で隠れて見えてなかったが、部長の少し後ろで機材の調整をしていた副部長の松下先輩が慌てて手をあげながら自己紹介をする。 「よろしく……お願い……いたします?」 咄嗟の緊張のあまり自分の日本語にすら自信が持てずに、疑問形のような口調になってしまう私。 「そんな緊張しなくていいよぉ。肩のちから抜いて、そうじゃなきゃ楽器弾けないよ?」 「は……はい」 「たしか柚梨ちゃんはギターボーカルになったんだよね。今日は…………そうだな、音楽準備室にアコギがあるからそれ使ってみようか」 部長の指差す先には、扉の上に『音楽準備室』と書かれた部屋への入り口。 「来て」と言うように部長は手招きをして私を部屋へと誘う。 「さぁ、好きなのを選ぶがいい!」 準備室に入ると、恐らく授業で使うこともあるのだろう。ギターが大人しくそして規則正しく並んでいた。 「どれ……と言われても……」 多く並んでいるのはいいが、すべて見た目が同じなのでどれを選んで良いかわからない。 目の前のにあるものを恐る恐る掴もうとすると、少し指に触れた弦が小刻みに震えて小さく音を発する。 「あ………」 「ほんとはエレキだけどまだ見学段階だし、とりあえず今日はアコギをやってみよう」 思ったよりは軽い…………のだがいざ持ち上げてみると私の身長からすると高めに腕を上げたり、準備室の中は物が色々詰まっていて狭く気を抜くとギターがぶつかってしまうようだった。一方、部長は慣れたように持ち運んでいる。 「さぁ、ここに座って。こんな感じ」 部長と向かい合って座り、部長の格好の真似をする。 「足は組んだ方がやりやすい人もいるしそうでない人もいるから好みかな」 「な……るほど」 「よし、チューニングの前に適当に鳴らしてみよう!こうやって」 部長の真似をしてゆっくりと右手を持ち上げて弦を目掛けて優しく下ろす。 ついに私は音を奏でるのだった──。
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