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「ここ………あっ行きすぎた」
その後、5弦4弦とまだ安定はせずゆっくりだが音を合わせていく。
下へ下へと指をずらして音を奏でる度に弦の太さの感触と音の高さの変化を実感するのだ。
「1弦はEにあわせて」
「E………Eは……」
「そう、これがチューニング。ちょっと待ってね」
ギターを再び抱えて座った戸松部長は慣れた手つきでチューニングを始める。
「おぉ…………」
私とは数倍、いや数十倍ほどの比べ物にならないほどの速度で音を合わせていく。
「部長は絶対音感……とかですか?」
「絶対音感まではないかな」
「でもチューナーほとんど見ていないような……」
「ある程度耳が慣れてくると、だいたいの音感で合わせられるよ。だいたいだから一応チューナーで確認しないとたまに間違ってるけどね」
その手つきに目が釘付けになるとともに、私はここまでになることができるのだろうかということを思ってしまう。私の駄目なところだ。
「うん、じゃあ今度はいよいよコードかな」
「コード?」
「ん~~なんて説明すれば良いかな。コードは……違う高さの音を3つ以上同時に鳴らすことかな」
戸松部長はそう説明して今度は左手の指をそれぞれ異なる弦に当てる。
「ここが1フレットって呼ばれるところ。ここからここの間にこうして、次は…………」
フレットというのは左手の指を使う指板に存在する線というのか棒のようなもの。
ヘッドに近い方から1フレット2フレットと呼ばれ、フレットが変わるごとに半音ずつ変化する。
「こんな感じで1フレットの2弦、2フレットの4弦、5弦の3フレットを押さえてあげるとCというコードになる。ドミソを同時にならすとCって言うコードになるの」
「2弦の……ここ……」
「うまく真ん中を押さえることができると綺麗な音になるよ」
部長の真似をするようにしてみるが、普段したことない指の形と開き方に手が震える。
「くっ…………」
「もっと力抜いて~~。親指は人それぞれやり易さがある。親指を使うこともあるけど」
変に肩や指に力が入ってしまったことで、自分からはわからないが恐らくおかしな体勢になってしまっている。
指定された弦だけを押さえようとするが他の弦に触れてしまったりする。
そんなことと少し戦った後──。
「そのまま右手で弾いてみて」
左手の形を崩さないように視点を右手に移す。
そして、
「あっ…………」
「そうそう!綺麗綺麗」
まだ基本的な部分ではあるが、こんな自分が綺麗な音を鳴らせたことに感動した瞬間だった──。
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