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「柚、部活はどう?」
私の両親は父親は安定の市役所関係で働いており、母親は数年前に仕事を辞めて専業主婦だ。
父親は夜遅いことが多いのでだいたい夕飯は母親と一緒に済ませることが多い。
母親は私の事を「柚」と呼ぶ。何でかというのは本人に聞いたことはなので不明である。
姉がいるがもう大学生で独り暮らしのため実家にはほとんど帰ってこない。一年にしても片手で数えられる程度だ。
学校から少し離れた場所にあり、木々や田畑に囲まれた家が私の家である。庭が広いことに加えて周りが田畑であるため夜中に騒いだとしても苦情が来ることはまずない平和なところである。
だからこそだが空き巣というものは狙いやすく、また夜中や朝方は野性動物に遭遇することもある。庭が広いということを加えてもいいか悪いかというのはなんともいえない。
「どうかって聞かれても、普通というか普通?」
「なにそれ」
「そうとしかいいようがないじゃん」
「欲しいのは決めた?」
今までまったく部活や習い事、塾にすら通ったことのない私が軽音部に入ることになり、エレクトリックギター、いわゆるエレキが必要となったことを報告した時は、ほとんど悩むことなくそれを許してくれた両親。父親いわく軽音部というワードが出た時から覚悟はしていたと言う。
しかし、「欲しいのは自分で決めなさい」との一言が私に取っての強敵だ。何を買えばいいのかまったくわからない。
さらにエレキでも本体だけではなく周辺の機材も最低限揃えなければ意味がない。その点に関しても問題は付きまとう。
「まだ決めてない」
「入るからには必要でしょ?お母さんたちはいいけど早めに必要なんじゃないの?」
「うん、でもどれがいいんだかさっぱり」
「先輩とかに聞いてくれば?部活の友達とか」
『部活の友達』私からするとそれは凄く思い言葉である。確かに帰り道は途中まで一緒に帰っては来たがそれでもまだ私の人見知りスキルは発動している。
「そうだね~~」
表向きではそういうものの、裏ではまったく違う。
やがて月は姿を消し、太陽が世界を照らす。
平和な、平和な休日が訪れようとしていた。
『柚梨、今日は暇?話があるんだけど』
それは華蓮からとあるメールが来るまでのはなしであった──。
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