1.鳴り出す私の音

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「柚梨!こっちだよこっち~」 大きな会場に集まる多くの人を掻き分けながら、華蓮を探して突き進む。 「は………はやいよ……」 「そう?」 「ほっ……ほんとに華蓮は紛れ込むのが得意なんだから」 「そうじゃないとこの人混みに押し潰されるよ」 後ろから押されたり、腕がぶつかったりと私にとっては生い茂った草木の間を突き進んでいるようだ。 他の例えで言うのではあれば、華蓮は山登りに慣れているが私は初めてで背中を追うだけで精一杯と言うような状態だ。 至るところから聞こえる音や声は、普段こういう賑やかな場所に来ない私にとっては耳が痛い。 周りから途切れることなく飛んでくる音の数々は雑音として私の耳を絶えず攻撃する。 「そろそろだよ」 この多くの人混みの中心で輝くように照らされた機材。 華蓮を始めとして周りの人たちが一斉に視線をぶつけるその先にあるのはこれから使われるであろう楽器。 人混みに押し潰されそうな私の横で期待の眼差しで中心を華蓮は見つめていた。 「あっきたっ!」 先ほどの倍以上の歓声が一斉に響き渡る。 それは真っ暗な星空に届きそうで、ここを震源として地震でも起きるのかと思うほどの凄まじさだった。 「……………」 私はそれに乗ることはできなかった。 なぜなら、中心に登場して今から音を奏でる人たち人たちがどういう人なのか、どういう音を生み出すのか私は知らないからだ。 せっかく誘われたのだから断る理由もないから来てしまった賑やかな会場。 でもギターを肩から下げてマイクの前にある女性が立つと、自然と私の気持ちに変化が現れた。 『あの人はどんな歌声なのだろう。そしてどんな音を響かせるのだろう』 そんな期待が生まれていた。 「皆さん!こんばんはっ!」 マイクを通して女性が声を広げる。 それにあわせて、まるで打ち合わせでもしていたかのように声を揃えて人々は返事を返す。 数分間、そんなやり取りや自己紹介が続いていよいよ会場の雰囲気が一転する。 完全に明かりは中心へ集結して私の周りはより一層黒に包まれた。 静まった会場に、ドラムのリズムに続いて高低音の様々な音が走り出す───。 静かに握っていたマイクから手を離した女性が、イントロの終盤に軽く口を開けて息を吸う。 未来を左右することとなった一曲が、 始まったのだ──。
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