1.鳴り出す私の音

6/13
前へ
/156ページ
次へ
そんなことから早くも1ヶ月が過ぎ、私の足は迷わずある場所へと向かっていた。 「軽音部、軽音部の場所は……」 高校生活が始まってまだ3日目。 いよいよ、部活見学の時がやってきました。 「あ、そこか」 音楽室と思われる教室は、私のクラスがある棟から少し離れた違う棟に存在する。 多少草の生えたのような花壇のある中庭を通りすぎて近づいていくとだんだん音が近づいてきた。 「おぉ~、やってる」 まずは少し怖いので恐る恐る窓から覗いてみる。 照明が輝いている音楽室にはあの時見たライブを思い出させるような機材が配置してあった。 私が窓から覗いていた時は、ちょうど曲が終わる前だった。 ボーカルの視線の先には並べられた椅子と聞いている何人かがいて、私のように入部希望者のような人もいれば先生のような人も座っていた。 当然私は機材を見たところでまったく知識がなく、もっと言えばその時はギターとベースを見分けることもできなければ違いすらもわかってはいない。 そんな私が軽音部になんて入っていいのだろうかと窓越しに実際に見て思ってしまった。 「えっ………」 マイクの前に立っている先輩が窓から覗く私に気づいて優しく微笑んで手招きをした。 一瞬足が止まるものの、誘われるようにして音楽室へと足を踏み入れて端の方に静かに座る。 たまたまなのか、私と同じように見学のため座っている人はみんな女子だ。 やがて全員に一枚の紙が渡され、そこには「誰でも歓迎!!軽音楽だよ」と大きく書かれていた。 こう言うところに初心者歓迎とかとよく書かれてはいるがそれでも初心者が入るのは怖い。 誰か私のような楽器未経験者がいてくれればと願いながら渡された紙を読んでみると、 「え~っと……、ようこそ!軽音部の部活見学に。私は部長の戸松(とまつ)日菜華(ひなか)です」 先ほど歌っていた人は部長だったらしい。 「見学に来ていただきありがとうございます!みんなは……ん~~どうしようかな。じゃあ、ちなみに経験者っていう人は?」 部長が手を上げて、経験者は手をあげるように促すと………、 「…………っ!」 まさかの私と先生を除いた全員、つまり4人がゆっくりと手をあげたのだった──。
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!

102人が本棚に入れています
本棚に追加